Evidence Update #02|“意思を救う”を考える─蘇生後脳症からICU後筋力低下、そして意思決定支援へ患者の「命を救う」とは、果たしてどこまでを指すのだろうか。

Evidence Update

 心停止後に蘇生され、集中治療を受け、命はつながった。でも、その後に待っているのは意識の戻らない日々かもしれないし、退院できても歩けない身体かもしれない。そして、そうした未来を予測できる私たち医療者は、その「選択肢」を患者とどう共有するべきなんだろう。

今回のEvidence Updateでは、救急・集中治療の最前線で問われるこの倫理的・臨床的テーマに焦点を当て、以下の3本の最新文献を取り上げる(2025/4/9)

  1. 蘇生後脳障害における神経保護と予後評価に関するILCORステートメント
  2. ICU後に残る筋力低下─その病態からマネジメントまで
  3. 救急外来でのShared Decision Making(SDM)

それぞれの論文を通じて、救命のその先にある「回復の質」、そして「意思の尊重」について、私たちがどのように向き合うべきかを考えてみよう!

  1. 📖 論文①:Improving Outcomes After Post–Cardiac Arrest Brain Injury
    1. 🔹 超要約
    2. 🔹 研究デザイン・構造
    3. 🔹 知見と推奨
    4. 🔍 Clipsteinの目(批判的吟味)
    5. 🔬 臨床応用のヒント①
      1. 【治療の“効かせたい機序”に合わせて、介入を戦略的に選択】
      2. 【脳機能回復の“兆候”と“非回復”の“見極め”を分ける】 “悪いEEG=非回復”ではない “改善傾向があるか”に注目すべし
      3. 【予後評価と治療中止判断の“誤解”を回避する】
      4. 【ICU内での“再接続・再教育”も治療の一環】
    6. 🧠 Dr.まにまにの私見
  2. 📖 論文②:ICU-Acquired Weakness: From Pathophysiology to Management in Critical Care
    1. 🔹 超要約
    2. 🔹 研究デザイン・構造
    3. 🔹 主な知見と推奨
    4. 🔍 Clipsteinの目(批判的吟味)
    5. 🔬 臨床応用のヒント②
      1. 【“運動は処方薬”という意識で、理学療法士と“デイリー離床計画”を共有せよ】
      2. 【敗血症・多臓器不全・鎮静深度が深い患者は“ICU-AWハイリスク群”】
      3. 【ICU電子カルテに“離床・筋力の定量評価”を記録する欄を追加せよ】
      4. 【“起こす・動かす”は鎮静管理とワンセットで考えるべき】
      5. 【退院後も含めた“機能的アウトカム”を治療目標に明示せよ】
    6. 🧠 Dr.まにまにのコメント
  3. 📖 論文③:Shared decision making in the emergency department: how can we better do justice for patients?
    1. 🔹 超要約
    2. 🔹 研究デザイン・構造
    3. 🔹 主な知見と提言
    4. 🔍 Clipsteinの目(批判的吟味)
    5. 🔬 臨床応用のヒント③
      1. SDMは“時間がないED”でも可能。「1分SDM」をルーチン化するのがいいか。
      2. 認知機能の簡易評価を標準化。「誰に意思能力があるか」を判断
      3. 「帰宅希望」は医学的判断でなく“人生の優先順位”の表れ
      4. SDMは説明義務ではなく“納得形成”の技術
      5. SDMは若手教育に最適なテーマ。「話して終わる医療」だからこそ、練習できる
    6. 🧠 Dr.まにまにの私見(short ver.)
  4. 🏁 総まとめ|Evidence Update #02

📖 論文①:Improving Outcomes After Post–Cardiac Arrest Brain Injury

Resuscitation 2024;186:109775
DOI: 10.1016/j.resuscitation.2024.109775
著者: Neumar RW, Callaway CW, Sandroni C, et al.(ILCOR Scientific Statement)

🔹 超要約

蘇生後の脳障害(post–cardiac arrest brain injury:PCABI)は、心停止後の最大の死亡原因のひとつ。神経保護、予後予測、意思決定の在り方に関する国際ガイドラインが整理された。
「今わかっていること」と「なぜ上手くいかないか」を構造的に示したロードマップ
「治療すべき時期・ターゲット・方法」の再定義
単剤治療ではなく多層・多機序・多時期介入を前提とした思考転換を促す

🔹 研究デザイン・構造

・ILCOR(国際蘇生連絡委員会)によるscientific statement
・最新の系統的レビューおよびRCTを基に、神経保護戦略と予後予測、意思決定におけるベストプラクティスを提示

🔹 知見と推奨

蘇生後脳障害を以下の4つの時間的フェーズで捉える構造モデルを提案(論文外の知見も文献と共に追加)
▶ Phase 1: 虚血性脱分極(Depolarization)
時期: 心停止期間中
病態: ATP枯渇によりイオンチャネルが開放し、Ca²⁺が細胞内に流入。細胞は膨化し、不可逆的な細胞死を引き起こす。
治療方針: 迅速なROSCを目指す。質の高いBLS/ALS、特に胸骨圧迫の中断最小化が鍵。
検査:心停止の持続時間(無脈時間)・初期リズム(VF/VT vs PEA/Asystole)・CPR開始までの時間

▶ Phase 2: 再灌流後再分極(Reperfusion Injury)
時期: ROSC後0〜6時間
病態: ミトコンドリアへのCa²⁺蓄積、活性酸素(ROS)の過剰産生、細胞内の酸化ストレス。ミトコンドリアの膜電位消失が細胞死を進行させる。
治療:Targeted Temperature Management(TTM:目標体温管理、推奨35〜36℃)従来の目標温度管理(33℃ or 36℃)ではなく、発熱回避(<37.7℃)を重視(Class I, Level A)
過換気の回避(低酸素・低炭酸ガスによる二次損傷予防)
検査:採血:乳酸(Lactate)≧10 mmol/L → 予後不良の可能性【Ref: Callaway CW, NEJM 2015】AST/ALT・CK-BB高値:多臓器虚血の指標(初回採血はROSC後0〜2時間以内が望ましい)
画像:頭部CT(出血性病変の除外目的、ROSC直後に実施)
EEGまたは瞳孔反応の評価開始(早期予後判定の参考、ROSC後6時間以内)

▶ Phase 3: 調節異常期(Dysregulation)
時期: ROSC後6〜72時間
病態: 血液脳関門の破綻、脳浮腫、ミクログリア活性化、炎症性サイトカインの放出などによる神経細胞死の加速。
治療:体温管理の継続・中止タイミングを見極め
抗炎症介入(例:スタチン、ミノサイクリン:文献上は動物モデル中心)
検査:IL-6、CRP: 炎症マーカー(初回はROSC後6〜12時間程度、以後経時的)【参考:Roberts BW, Resuscitation 2013】
NSE(Neuron Specific Enolase): ≧60 µg/L → 高度な神経障害を示唆。推奨タイミングはROSC後24〜72時間で複数回測定【Ref: Sandroni C, Intensive Care Med 2021】
S100B蛋白: グリア細胞障害の指標(≧0.5 µg/L以上が予後不良と関連)。早期はROSC後0〜24時間内、その後48時間でも評価【Ref: Streitberger KJ, Crit Care 2017】
MRI(DWI): ROSC後2〜5日目が推奨タイミング。びまん性高信号所見(ADC値の低下)は予後不良と強く関連【Ref: Roffe C, Lancet Neurology 2021】
EEG: ROSC後12時間以降に連続脳波モニタリング。burst suppressionや無活動パターンは予後不良【Ref: Westhall E, NEJM 2016】

▶ Phase 4: 回復期(Recovery / Plasticity)
QOL評価: 退院前および3〜6ヶ月後に標準化ツール(EQ-5D等)で実施【Ref: Moulaert VR, Resuscitation 2009】
時期: ROSC後3日目以降〜数週間
病態: 神経新生・シナプス再構築が起こるが、無秩序な回路形成がてんかんや認知障害をもたらすことも。
治療:早期リハビリテーション(PT/OT/ST)導入。感覚刺激療法(音楽、光、触覚など)
検査:長期的な神経バイオマーカー測定: ROSC後4日目以降にNSE/S100B再測定(回復傾向の確認)
MRIフォロー(T2FLAIR、DWI): ROSC後1週間〜2週間時点での再評価
認知機能評価(MoCA、MMSE等): 意識回復後数日〜数週間以内に施行(初回はICU退室時、以後外来で反復)

神経予後予測:48時間以降の臨床評価(GCS-M < 3)に加え、EEG、MRI、脳波、SEPなど多面的指標を組み合わせる(Class I, Level B)
●意思決定:過早な治療中止は予後を悪化させるため、少なくとも72時間の観察が推奨(Class I, Level B)

🔍 Clipsteinの目(批判的吟味)

  • 内的妥当性:ILCORのステートメントとして高水準。エビデンスと実践の架け橋を意識した記述。
  • 統計解析:主要なRCTやSRからエビデンス評価を明記。推奨の透明性あり。
  • 外的妥当性:欧米中心のデータではあるが、普遍的な臨床課題を扱っており応用可能。
  • 臨床応用性:極めて高い。特に意思決定と予後予測のタイミングに関する明確な指針は現場での迷いを減らす。
  • GRADE的評価:★★★★★(推奨の透明性と国際的コンセンサスが裏打ち)

🔬 臨床応用のヒント①

【治療の“効かせたい機序”に合わせて、介入を戦略的に選択】

介入作用点適応フェーズ臨床での活用例
低体温療法(TTM)炎症抑制・代謝低下フェーズ②〜③TTMで標的温32–36℃設定+再加温速度管理
血圧管理脳灌流の確保フェーズ②MAP 80–100を維持。過度な昇圧はNG(出血リスク増)
酸素化・換気過剰ROS回避+低酸素予防全フェーズPaO₂ 75–100、EtCO₂ 35–45を目標に換気調整
抗けいれん薬皮質過興奮の抑制フェーズ③EEGで周期性放電やNCSEを早期検出+投与判断
ステロイド・抗炎症薬(研究段階)IL-6などの制御フェーズ③バイオマーカーを基にした層別投与(臨床試験参加)

【脳機能回復の“兆候”と“非回復”の“見極め”を分ける】 “悪いEEG=非回復”ではない “改善傾向があるか”に注目すべし

  • 🌙 持続脳波モニタリング(aEEG or full EEG):周期性放電やバースト抑制を経て改善傾向ありなら様子を見る
  • 🧪 バイオマーカー(NSE, S100B):動態変化を記録し、“予後決定の材料”ではなく、“予後予測の補助”として使う

【予後評価と治療中止判断の“誤解”を回避する】

❌「治療が効かなかった」=「もう打つ手なし」ではない
生命維持治療の中止を検討する際は、以下の3つが満たされて初めて考慮

  1. 治療反応性のない神経学的評価(72時間以降)
  2. 明確な神経所見(例:両側ミオクローヌス、脳波で持続的抑制など)
  3. 複数モダリティの一致(EEG+CT+NSEなど)

【ICU内での“再接続・再教育”も治療の一環】

「覚醒後からが治療の本番」:意識回復後のリハ・再学習支援
ICU後症候群(PICS)対策として:
 ・睡眠・昼夜リズムの調整
 ・家族との面会再開(可能なら音声・匂い刺激など)
 ・軽度刺激リハ(理学・作業・言語療法)をできるだけ早期に

🧠 Dr.まにまにの私見

「一度死んだ脳は戻らない」ていう前提を覆そうとする動きが垣間見られる。
心拍の再開=救命、脳の損傷=諦めという構図だった自分の気持ちに「ちょっと待て」がかかった。
治療のタイミング・患者の層別・介入の複雑性を全て統合した新しい“パス”が提示され、そこには「今できること」だけではなく「未来に向けて何をすべきか」が語られている。

📖 論文②:ICU-Acquired Weakness: From Pathophysiology to Management in Critical Care

Emergency Critical Care Medicine 2025;2(1):e00004
DOI: 10.54844/ecm.02.00004
著者: Sakuraba S, Nishimoto Y, et al.

🔹 超要約

ICU後の筋力低下(ICU-AW)は、人工呼吸管理や多臓器不全に伴って生じる合併症であり、退院後のQOLや予後に大きく影響する。適切なモニタリングと早期介入によって、神経筋障害の悪循環を断つことが求められている。

🔹 研究デザイン・構造

・我らが日本発のNarrative Review(総説)
焦点:ICU-AWの定義・分類・機序・予防・リハビリ・アウトカム影響
対象疾患:ICU入室中に筋力低下を認める重症患者群(敗血症、ARDS、人工呼吸管理など)

🔹 主な知見と推奨

  • ICU滞在 >5日でICU-AW発症率は30〜50%
  • 神経電気生理学的診断やMRCスコアでの筋力評価が重要
    主因は筋肉自体の変性+神経伝導障害(critical illness myopathy + neuropathy)
  • 早期のリハビリ・栄養介入が発症率を低下させ、転帰改善に寄与。鎮静の最適化も併せて必要
  • ICU-AWの存在は、人工呼吸器離脱・ICU LOS・再入院率に独立して関連
  • 電気刺激療法やプロトコル化された活動介入の有用性

🔍 Clipsteinの目(批判的吟味)

  • 内的妥当性:既存エビデンスのまとめとして信頼性あり。図表の視認性も高い。多くのRCT・システマティックレビューに基づく記載で信頼性高い
  • 統計解析:定量評価はないが、各種研究結果を概観、丁寧。
  • 外的妥当性:高齢化が進む日本のICUにおいて極めて実用的。
  • 臨床応用性:看護・リハチームとの連携強化に直結する内容。
  • GRADE的評価:★★★☆☆(ナラティブだが内容は精緻)

🔬 臨床応用のヒント②

【“運動は処方薬”という意識で、理学療法士と“デイリー離床計画”を共有せよ】

ICU-AWの最大の予防策は早期離床・能動的な筋活動であり、これは静的な看護計画だけでは達成できない。朝の回診で「今日はベッドサイドで座位保持を2時間、午後に足踏み運動10回」など、具体的な処方レベルの離床目標を多職種で合意することで、行動に落とし込まれる。

【敗血症・多臓器不全・鎮静深度が深い患者は“ICU-AWハイリスク群”】

ICU-AWは誰にでも起き得るが、リスク因子は予測可能である。たとえば、敗血症+DM+プロポフォール連日投与中などは、早い段階で理学療法士に「要積極介入」と伝え、標準離床パスから逸脱しないよう管理すべき。

【ICU電子カルテに“離床・筋力の定量評価”を記録する欄を追加せよ】

筋力低下は“記録されないものは評価されない”の典型例。Medical Research Council(MRC)スコアや「立ち上がり可否」などの定量指標を記載すれば、看護師も意識的に観察するようになる。これにより、筋力回復を“治療の成果”として認識しやすくなる。

【“起こす・動かす”は鎮静管理とワンセットで考えるべき】

鎮静が深すぎる、RASS-4のまま数日──これではどんな優秀なリハビリ計画も実行不可能。
鎮静レベルは“早期離床の可否”という観点で評価し、日ごとに見直すべき。とくに連日のmidazolam使用などは見直し候補であり、意図的にPropofol短期切替も考慮に入る。

【退院後も含めた“機能的アウトカム”を治療目標に明示せよ】

家族や患者に対し、「ICUから出られるか」ではなく、「歩いて帰れるか」をゴールとして伝えることが重要。ICU-AWが長期QOLに与える影響を説明することで、入院中の離床や介入の意味づけが共有されやすくなる

🧠 Dr.まにまにのコメント

この前集中治療学会に行ったけどICU-AWは常にHOTな分野。看護師さんの発表も多く、やはり病気だけではなく人をみて人生をよくするにはって視点が重要。僕の働くICUでも理学療法士さんと連携して頑張っているがこの論文まではまだ・・・。
僕ら医師は目の前でSpO₂もMAPも安定しているから、静かなベッド上で「治ってきてる」と思ってしまう。でも実際は、その静けさの裏で“筋肉と神経は死んでいる”のかもかもしれないなと再認識。

このレビューは、早期リハビリの重要性を「熱量」をもって再確認させてくれる論文。ICU-AWに“治療”コスパが悪い。つまり予防=介入という視点が鍵。


📖 論文③:Shared decision making in the emergency department: how can we better do justice for patients?

The Lancet Healthy Longevity 2025;6(1):e9–e17
DOI: 10.1016/S2666-7568(25)00018-2
著者: Sullivan M, Hess EP, et al.

🔹 超要約

救急外来という時間的・感情的制約の中で、患者とどう意思決定を共有できるのか。ERにおけるShared Decision-Making(SDM)の有用性と困難性を整理し、今後のアプローチ改善を提言したレビュー。

🔹 研究デザイン・構造

・視点論文(Perspective)
・救急外来に来院する高齢者およびその家族を対象に臨床例と文献を交えたSDMの実装に関する考察

🔹 主な知見と提言

  • 多くの高齢者は「自分で選びたい」という希望を持つが、実際には医療側主導の説明で完結しているケースが多い。
  • ERでは「時間のなさ⏱️」「感情」「情報の非対称性」がSDMを困難にする
  • 認知機能や意思能力の簡易評価が省略されがちで、意志が正確に把握されていないことがある。
  • それでも、以下の3点を満たせばSDMは可能:
    1. 選択肢がある
    2. 意思表示できる患者/代理人がいる
    3. 判断を下す時間がある程度確保できる
  • 決定支援ツール(decision aids)の導入は、説明時間を短縮しつつ、患者の満足度・納得感の向上に寄与する可能性がある。

🔍 Clipsteinの目(批判的吟味)

  • 内的妥当性:論理構造明快。現場実感に即した内容。
  • 統計解析:視点論文。記述的だが、多くの実データに基づいており補強的。
  • 外的妥当性:国際的視点でのER環境を想定、日本の臨床にも応用可能。
  • 臨床応用性:特にACPや緩和ケア導入の文脈で有効。
  • GRADE的評価:★★★☆☆(エビデンスでなく、実践的指針)

🔬 臨床応用のヒント③

SDMは“時間がないED”でも可能。「1分SDM」をルーチン化するのがいいか。

例:「CTで今すぐ確認する方法と、明日外来で再評価する方法があります。どちらがご希望に近いですか?」
→ 情報提供+選択肢提示+患者の価値観確認=最低限のSDMが成立。
→ この「SDMフレーズ」を医療者のテンプレートに落とし込むことが推奨される。

認知機能の簡易評価を標準化。「誰に意思能力があるか」を判断

時計描画や3語記憶など、30秒以内で可能な簡易評価で十分。
→ 不明確であれば、家族に「あなたが代弁者として希望を伝えてもらえますか?」と確認。
→ 医療判断の場面で「患者の意思に基づく判断」を意識的に継承する。

「帰宅希望」は医学的判断でなく“人生の優先順位”の表れ

EDでは「今は帰りたい」という意志が生活上の背景(独居、家族ケア)に基づくことがある。
→ 単に「入院した方が安全です」と押し切るのではなく、患者の生活に即した説明と合意形成が求められる。
→ SDMは、「安心して帰す」技術でもある。

SDMは説明義務ではなく“納得形成”の技術

医学的選択肢を示すだけでなく、その選択が患者にとってどういう意味を持つかを翻訳することが医療者の役割。
例:「帰ることを選んだのは、あなたが“家での暮らし”を何より大切にしているということですね。」

SDMは若手教育に最適なテーマ。「話して終わる医療」だからこそ、練習できる

「SDM練習症例」として、説明の組み立て、患者の感情予測、着地ポイントの検討を教育に導入すれば、非技術スキルを鍛える実践場になる。→ ERは「説明力」の反復練習場でもある。

🧠 Dr.まにまにの私見(short ver.)

救急で意思決定の共有なんて、時間も余裕もないぜ。……そう思ってた自分に、この論文を読ませたい。患者にとってERは、“選択を迫られる場所”であり、同時に“声を聞いてもらえない場所”にもなりがち。でも、たった一言──「どちらを希望されますか?」が、
患者の不安を“納得”に変えるスイッチになることがある。
完璧なSDMなんて、EDじゃ無理だと思う。でも、“聞く姿勢”くらいは持てるかもしれない。
患者に対しても、そして、僕の場合……妻に対しても。日々反省(笑)

🏁 総まとめ|Evidence Update #02

今回取り上げた3本の論文は、それぞれ異なるステージを扱いながらも、共通してひとつのメッセージを語っています。「医学的判断は、人生の文脈の中でこそ活きる」

① ILCORステートメント→ 蘇生後の脳障害評価は、拙速に結論を下さず、 “チーム全体で時間をかけて判断する” ことの重要性を。
② ICU-AWレビュー→ 筋力は“沈黙のバイタル”。 「動かす=治療」 という認識を、私たち自身がアップデートする必要があり。
③ SDM論文→ 時間のないERでこそ、 “聞く姿勢” が問われる。1分でできるSDMを。


✍️ 執筆:Dr.まにまに
📚 他のEvidence Updateはこちら → https://in-the-emergency-room.com/category/evidence-update

救急医療 #ICU #SDM #医学教育 #EvidenceUpdate

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