やや忘れがちの破傷風トキソイドの適応。傷の診療をするとき思い出すエピソード・・・
研修医の時、自転車のチェーンを触って小さな切り傷を作ったのをイギリス人の先生に見つかって「お前、トキソイド打ったのか!何、打ってない?!打たいとだめだ。」と救急外来受診を促されたというエピソード。
破傷風予防に関しての認識を改めたきっかけでもある。
予防が重要な感染症である破傷風。「外傷患者の破傷風の予防」についてエッセンスをまとめてみた。
破傷風について
北里柴三郎先生が培養に成功したグラム陽性桿菌(GPR)の破傷風菌さん。5類感染症に位置づけられる。
神経毒素が神経症状(痙攣、呼吸不全など)をひき起こす、致死性感染症。
土壌中、動物の口腔内に常在しており、創傷から感染。
いや、あきらかな創がなくても発症する報告もある怖い病気。
年間100-120人くらい発症し、10%が死亡し、人工呼吸器管理が必要になる可能性もしばしば。
つまりは発症予防が重要な感染症である。
免疫獲得には能動免疫(破傷風トキソイドによる予防)、受動免疫(グロブリン製剤による予防)、2つあり適応に関しては後述する。
ワクチン(破傷風トキソイド)
日本では1968年よりDPTの定期接種が開始となった。
それにより基礎免疫ができ発生数は激減したわけであるが、それでもなお先述の発生数。
理由は免疫が減弱する10年を目安に追加接種が必要であるのに日本国内においては一部(自衛隊員、消防隊員、動物関連の職種など)を除き、成人の破傷風トキソイド定期接種は行われていないからだ。
小児期のワクチン接種
DPT-IPV:ジフテリア(D)、百日せき(P)、破傷風(T)、ポリオ(IPV)
DPT ワクチン:ジフテリア(D)、百日せき(P)、破傷風(T)
DT ワクチン:ジフテリア(D)、破傷風(T)
現在の定期接種では第2期の接種が11-13歳未満であり、破傷風トキソイドの最終接種は12歳となる。
小児期に接種歴がない場合に接種する場合
沈降破傷風トキソイド 0.5 mL を 3 回皮下または筋肉内に接種
(1回目➡3~8 週後➡12~18 ヵ月後に接種。2回目から6カ月空ければ3 回目接種OK)。
その後は、抗体の減衰を考慮して 10 年毎に 1 回沈降破傷風トキソイドの追加接種を行う。
どういう人に破傷風トキソイド?免疫グロブリン?
破傷風トキソイド(ワクチン歴)が不十分である可能性がある
➡リスク低い傷:トキソイドのみ
➡リスク高い傷:トキソイド+HTIG
破傷風トキソイドの接種が3回以上ある人(日本、2022年現在、54歳以下でワクチン拒否していない人)
➡5年未満で追加接種(ブースター)している人、17歳未満:予防は不要。
➡トキソイド接種して5-10年経過している人:リスク高い傷のみトキソイド
➡トキソイド接種して10年経過している人:傷があればトキソイド
つまり、救急外来に来る成人の傷にはトキソイドがほぼ必須(追加接種している一般人は現在かなり少ないと思う)となる。中高年(55歳以上:2022年現在)は小児期の破傷風予防が義務化されていない世代であり初期免疫がなく、3回摂取していないことが多いと思うのでトキソイドは必要だし、汚染創であればテタガム、テタノブリン250IU投与となる。
さいごに
重要な事
① 救急外来に来た外傷患者に対して、破傷風トキソイドの接種歴、最終接種からの期間、創の感染リスクを勘案して破傷風トキソイドと免疫グロブリンの投与を行う!また未接種の患者には3回接種のマネジメントを。
② 外傷、受傷で来院されていなくても肺炎球菌ワクチンのように成人への破傷風トキソイドワクチン接種をマネジメントできるように体制を改めていく意識を持つことも重要!(発症数は肺炎球菌関連感染より大きく劣るが)
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