血液ガス分析、いまいち理解が出来ない、使えない、というあなたに。
語弊を恐れず言うと「アクションプランを片手にシステマティックに血液ガスを読んでみる事と目の前の患者さんを診て病態をイメージする事が近道である。正直、詳しい理解は後付で遅くない。」と思います。
血液ガスのいいところは「早い」と「情報量が多い」が共存する所。血ガス検査結果を見て30分考え込んで出てくる情報、診断ヒントもあるが救急外来はそれは二の次です。
最初の5分でどこまで情報をゲットできるかここにfocusしてまとめてみました(5分間でやるアクションはCHECKに記しました)。
先生、静脈血ガスでいいですか?問題
「血ガスを動脈でとるか?静脈でいいか?」
とりえず、血中酸素の評価以外はまず静脈血ガスで良さそうです。
pO2を評価するときは必ず動脈血液ガスを採取する。
pCO2(5mmHgほど⇧)、乳酸は静脈の方が高い。静脈で正常であれば動脈でも正常だろうと考えます。
pH、HCO3- を評価する場合は静脈血液ガスでOKです!
Eur J Emerg Med. 2014 Apr;21(2):81-8.
呼吸について分かること
① 低酸素血症であるか? PaO2 < 60mmHg (80mmHg) 呼吸数 P/F比
② CO2は上昇しているか? PCO2 > 45mmHg 悪いのは肺か?換気か?
③ A-aDO2 >10 mmHg( 年齢÷3:60歳なら20mmHg許容 ) → 肺が悪い(肺塞栓なども)
まず、呼吸数、酸素投与を加味するようにします。
呼吸数上昇や酸素投与下で、PaO2正常値下限付近である場合、低酸素が隠れているかもしれません。 呼吸数が正常でPaO2/FIO2 比は400以上でOKですね。
PaCO2上昇あり → 肺は悪くないが換気ができない (神経筋疾患、呼吸中枢異常:器質的、薬剤性など、体型の問題)、肺も悪く換気が上手くできない(慢性肺疾患、COPDなど)、稀ですが代謝性アルカローシスの代償などをイメージします。
PaCO2上昇なし→肺が悪い(肺炎、心不全、肺塞栓など)か右左シャント。酸素投与してみると肺が悪い場合は酸素投与に反応するが右左シャントの場合は酸素投与になかなか反応しません。
肺炎像、心不全象がレントゲンで指摘できないのに、酸素の具合がいまいちパッとしない時 (例 :「いつもSPO2: 98%の人が92-3%しか無い」「若年、既往なしの人がSPO2: 95%で少し息切れする。」「本当にストレス性の過換気症候群だけかな?」)にまず計算してみるのがA-aDO2です。
A‐aDO2 ≒ (713 × FiO2) ‐ PaCO2 / 0.8 ‐ PaO2 (必ずしも正確なFiO2は把握しにくいので注意)
( room air の場合「713 × FiO2(0.21) = 150 」)。こうゆう場合は肺塞栓なども考慮必要です。
酸ー塩基について分かること
基本ですが「アシデミア=血液が酸性だ」「アルカレミア=血液がアルカリ性だ」「アシドーシス=血液を酸性にしようとする原因、プロセス、ベクトル」「アルカローシス=血液をアルカリ性にしようとする原因、プロセス、ベクトル」です。
【STEP1】アシデミアか?アルカレミアか?正常値は7.40±0.05
【STEP2】 主な問題は呼吸性か?代謝性か?
病態の混合がないかどうか?【STEP3,4 】
【STEP3】AGの開大は?
AG = [Na+]-[Cl–]-[HCO3–] (正常値: 12±2)
AG開大あり(>12) → 補正[HCO3–]計算:⊿AG+[HCO3–]
補正[HCO3-]が正常範囲であれば有機酸蓄積による一元的を考える。
【STEP4】代償が妥当に作用しているか?
代謝性アシドーシス
ΔPCO2=1.0-1.3 × Δ[HCO3–] (限界 PCO2>15)
代謝性アルカローシス
Δ PCO2 =0.5-0.7 × Δ[ HCO3– ] (限界 PCO2<60)
呼吸性アシドーシス
急性:Δ[ HCO3– ]=0.1 × Δ PCO2 (限界[ HCO3– ] <30) PCO2:10上昇 → pH:0.08低下
慢性:Δ[ HCO3– ]=0.35 × Δ PCO2 (限界[ HCO3– ] <42)
呼吸性アルカローシス
急性:Δ[ HCO3– ]=0.2 × Δ PCO2 (限界[ HCO3– ] >18)
慢性:Δ[ HCO3– ]=0.5 × Δ PCO2 (限界[ HCO3– ] >12)
【STEP5】 問診、診察から患者さんはどうゆう状態か?
STEP1-4で状態をざっくり診て、STEP5でしっかり診るのが重要です。
① pHをみて7.4より高いか低いかをみるだけです。
② アシデミア
→PCO2が高い→呼吸性
→HCO3–が低い→代謝性
アルカレミア
→ PCO2 が低い→呼吸性
→ HCO3– が高い→代謝性
pH正常
→ PCO2 が正常であれば問題なし
→呼アシ+代アル or 呼アル+代アシ かもしれない。
③ AG = [Na+]-[Cl–]-[HCO3–] (正常値: 12くらい)
覚えておくべきはアルブミン(正常4g/dlとして)1g下がるとAGは2.5下がること。
AG開大=電解質異常、脱水でも開大するが、とりあえず何らかの代謝性アシドーシス(有機酸増加)があると考えた方がよい。pHに関わらず計算する(代謝性アシドーシス、アルカローシスで打ち消し合うとpHは見た目は正常範囲に収まるので)。
AG開大している場合、図1のようにAG増加分(⊿AG=AG – 12)だけ [HCO3–] が減少します。
そこで有機酸が増えた(代アシ)せいで下がってしまった[HCO3–]を補正する→有機酸増加をなかった場合の[HCO3–]に補正してみる。補正[HCO3–] = 測定[HCO3–] + ⊿AG
有機酸増加のみで一元的にアシデミアになっていたのであれば補正[HCO3-] = 24前後と正常範囲になる。補正[HCO3–]が明らかに低い(アルカリは少ない)場合は他のアシドーシスが合併しているし、補正[HCO3–]が明らかに高ければ他にアルカローシスが合併しています。
④ 普通、酸塩基異常があれば恒常性から異常とは逆の代償が働く。代謝の異常であれば呼吸で代償するし、逆もまた然り。各式で計算して予測値からずれていれば、病態が混合していると推察されます。
・代謝性酸塩基異常→呼吸性代償(肺で CO2 (酸)を吐く):即座に頻呼吸などで反応可。
・呼吸性酸塩基異常→代謝性代償(腎/尿排泄など):代償に時間がかかる。
⑤ 問診、診察から患者さんはどうゆう状態と推察できるか?
患者さんの既往、リスク、バイタル、症状と血ガスの状態を加味して、評価する。
代謝性アシドーシス
AG開大(どう覚えてもいい)
ケトアシドーシス:DKA、AKA、etc.
乳酸(壊死、循環不全、敗血症、ビタミン欠乏)、短腸症候群
尿毒症
アルコール:メタノール、エチレングリコール ,etc.
アスピリン、カフェイン、CO、シアン中毒 など
AG正常 (高Cl性)
[HCO3–]喪失:下痢、tubeドレナージ
尿細管性アシドーシス
アセタゾラミド
生理食塩水輸液 など
代謝性アルカローシス
嘔吐、アルドステロン症、、バーター症候群、ギテルマン症候群、利尿薬、CO2貯留代償後など
呼吸性アシドーシス
換気不全
呼吸性アルカローシス
過換気症候群:低酸素がないか?A-aDO2開大がないか?原因として
高ストレスの疾患がかかわっていないか?確認する必要あり。
以上のように血ガス+患者状態から診断を導いていきます。
その他に見るべきところ
3つのギャップ(アニオンギャップ、サチュレーションギャップ、浸透圧ギャップ) これはまた別記事で。
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