あの、先生。アナフィラキシーの患者さんにアドレナリン筋注するかで質問なんですけど。
敷居低めに打つ先生と、できれば打たない方針の先生に分かれる気がするのですが、実際のところどうするべきでしょうか?
アナフィラキシーと判断したんでしょう?
基本、打ってください。
えー。アドレナリン打って変になったら怖いですし。。。
アナフィラキシーの方が恐いですけどメー。
私は迷ったら、打っています。
アナフィラキシーの診断のポイント:STEP1
診断のポイント
診断のポイントは蕁麻疹などの皮膚症状のみか、全身症状(多臓器に影響)になっているかという点で考えるとよい。
【➀ 皮疹+気道、循環、腹部症状】
皮疹があるともちろん分かりやすい。なぜならまさに見るからに「これはアレルギーだな。アナフィラキシーになっているか考えよう。」という思考になるからである。
ここで知っておくべきは1~2割程度が皮膚症状がなく、ただ単に気道症状、ショック症状とか腹痛などで運ばれてくるということ、これは下記の②を参考にすると抗原(アレルゲン)があるか?という視点が重要である。
【② アレルゲン+気道、循環】
皮疹がない場合でもアナフィラキシーはありうることは前述の通りで、ポイントとして「アレルゲンあり」の問診がkeyとなる。ここでも知っておくべきことがあって・・・3割にアレルゲンの曝露の聴取ができなかったということである。アレルゲンと心肺停止までの時間として下記図を参考にして欲しい。重症なアナフィラキシーとしてはやはり血中にアレルゲンがどのスピードで入るかといったことが急な増悪へつながる因子なのだろうと推察される。蜂刺傷では大きなスズメバチよりアシナガバチの方がアナフィラキシーになりやすいそうである。
知っておくべきcommonな鑑別、誘因
アナフィラキシーと疑われるような、またそれに類似する病態として以下のようなものがある
・バンコマイシンのレッドマン症候群
・熱傷やタンポン、SSIにともなうトキシックショックシンドローム:TSS
・ヒスタミン中毒
・喘息
・小麦アレルギーと思いきやダニアレルギー(パンケーキ症候群)
・魚アレルギーと思いきやアニサキスアレルギー
治療が違うものもあるし、アナフィラキシーの治療が効くケースもあるので冷静に病態を見極めて対応しないと、follow up 計画に問題が起きるので知っておこう。
直接的に診断に結びつくわけではないが、誘因として物理要因(運動、寒冷、温暖:入浴、日光など)、アルコール、オピオイドなど一部薬剤、ストレス(旅行中も)が言われている。アナフィラキシーを起こしやすい状況であった可能性の評価とfollow up中に避けるべきコンディションとして忘れてはならない。
アナフィラキシーの治療のポイント:STEP2
いわずと知れた治療はアドレナリン筋注であるが、どこに?どれだけ?いつ?投与するかは明確にしておく必要がある。
何を?どこに?どれだけ?
アドレナリンは0.01mg×体重(kg)であるが、大人なら大体は「大腿外側に0.5mg」で覚えておくとよい。大腿部の筋肉の血流は豊富であり血中濃度が早期より上がりやすいことがその理由の一つである。
治療薬に関してはこの薬を使用すると覚えるのも重要ではあるが、アナフィラキシーの患者の体内で何が起こっているのを想起して、その治療を行っていくと間違えがない。好塩基球や肥満細胞上のレセプターにIgEを介して抗原が作用すると、ヒスタミン、ロイコトリエン含めたのケミカルメディエータの放出、それによる広範な平滑筋収縮(喘息症状、消化管症状)や血漿漏出を伴う血管拡張(蕁麻疹、血管性浮腫など)がおきる。
この血管拡張、ケミカルメディエータの放出などを是正する意味でアドレナリンはアナフィラキシーの第一選択薬として有用であるわけだ。この病態生理の治療としては有効な循環血漿量低下に対しての輸液は有用であるし、エビデンス上は限定的な効果であるといわざるを得ない薬剤であるが他には「蕁麻疹に対する抗ヒスタミン薬」「喘息症状に対するステロイド、β刺激薬吸入」は考慮する。注意すべき点に昔より使用されてきた抗ヒスタミン薬、ステロイドは第一選択薬でないこと。つまり皮膚症状や呼吸器症状などへの限られた効果であるし、小児に対するステロイドは有害事象も指摘されているので勘案する必要がある。抗ヒスタミン薬やステロイドの投与は静注となることが多いがその薬剤による反応やアスピリン喘息の可能性も考慮して、投与するステロイドの種類を変更したり、急速な静注投与ではなく、点滴投与をしつつ経過をみるように私はしている。
もう一つsecond lineではあるが、グルカゴンについて話しておこう。特にβ blockerの内服をされている患者さんだとアドレナリンの効果が乏しい場合があり、グルカゴンを1国際単位・1mg静注することは知っておくとよい。この知識を知っておくと安心な反面、最初から内服薬を知っており、「アナフィラキシーだ! β blocker飲んでいるからグルカゴンと投与だ。」っとなってしまう場合がある。
この思考はNG。あくまで現段階では第一選択薬としてはアドレナリン投与であることは再度強調しておく。
アドレナリンはいつ打つのか?
経験上、「アドレナリン投与はアナフィラキシーと判断した時に筋注すればいいのではないか。」っと考えている。直接、血管内に入らなければ安全に使用できる薬剤であるからである。でもアドレナリン投与躊躇したくなる気持ちは分かる。だって心肺停止や超重症の低血圧の患者さんに使っているイメージあるもんね・・・。研究結果でもその通り、小児、高齢者には投与が控えられる傾向あるらしい。
Kawano T, Scheuermeyer FX, Stenstrom R, Rowe BH, Grafstein E, Grunau B. Epinephrine use in older patients with anaphylaxis: Clinical outcomes and cardiovascular complications. Resuscitation. 2017 Mar;112:53-58. doi: 10.1016/j.resuscitation.2016.12.020. Epub 2017 Jan 6. PMID: 28069483.
気持ちは分かるがやはり投与は基本であると覚えておこう。それを前提に、⾷物アレルギー診療ガイドライン2021で一案提示してくれているのでシェアしておく。
「重症度判定で軽症、改善傾向と判断できる場合」と「中等症であるが以前重篤なアレルギー歴がなく、循環的にも安定している場合」はアドレナリン投与しなくて良いのではとされている。事実、院内で発症した場合や自分が初療した場合はあまりないこどだが、他院でアナフィラキシー疑いで搬送されてきたり、他の初療医がアドレナリン投与しないでしばらく経過観察していた場合、症状が改善しているケースもあり、「今更投与するのもな・・・」っとなることもありその場合はアドレナリン投与なしで見ることもある。
ただ、やはり発症を最初に認識したり、発症間もなかったりする状態ではこのまま状態が悪くなるのか改善するのかわからないわけである。発症間もなく症状のピークを過ぎていない段階で診察した場合は今後の増悪を鑑みて投与するっということになるというのが現場の感覚かなっと私は考える。
アナフィラキシーのfollow up計画:STEP3
アナフィラキシーを越した患者さんを今後、どうマネジメントするのかっというもの大切な要素である。ICU入室レベルの重症なアナフィラキシーショックでない限りは、「帰るの?」「入院するの?」っという問題が出てくる。
その回答は正直なところ私は持ち合わせていない。つまり、救急外来で1回アドレナリン筋注して、輸液して、抗ヒスタミン薬投与して落ち着いたかなって患者さんで入院させてみたはいいが二相性の症状でめちゃ困ったって経験もなければ、帰宅させて再燃して再受診したっという経験もないので肌感ではよくわからない(笑)
実際ガイドラインなどでも様々な言われようで基準はあいまいであるし個人差があるということなのだろう。RCUK ガイドラインでは16時間以上経過観察(発症中央値12時間)が言われているし、1時間経過観察して問題なければ9割方問題なく、6時間経過診て問題なければ97%は大丈夫。
30分以内にアドレナリン投与できていて、単回投与で、10分くらいで完全に改善。エピペン使い慣れている患者は2時間経過観察してで帰宅検討も可能とされているし、改善までに2回アドレナリン筋注を要した患者や二相性の症状の既往がある場合は6時間経過観察推奨。
改善までにアドレナリン筋注を2回以上要し、呼吸症状があったり、夜間の来院や医療アクセス悪い場合、または食べたとか徐放剤など消化管内でただいま吸収中的な状況の場合は12時間の経過観察推奨とされている。
私は本人、家族に異論がなければ入院で一晩診させていただいているし、帰宅希望が強くても上記基準を参考にしながら2~8時間(だいたい8時間くらい)、ERで経過を見させてくださいとマネジメントしていることが多い。インバウンドでの外国人が多くこられる昨今、コストの面からもなかなかマネジメントを苦慮することも多々あるのが最近の悩みの種である、云々かんぬん。
Working Group of Resuscitation Council UK. Emergency treatment of anaphylactic reactions: Guidelines for healthcare providers. 2021.
最後に、入院するにしろ、外来で帰宅するにしろ、運動、飲酒、入浴などに直近は注意していただき、皮膚科などアレルギーに明るい科や病院に紹介するようにfollow up計画を立てている。
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