AVS:急性前庭症候群を“迷わず診る”ために

Tips

1. 惑わされるな──めまいの“白黒”はベッドサイドで決めろ

「ぐるぐるが止まりません。頭痛?ありません。」
眼振が水平眼振で一方向性。
この所見で来られた瞬間、心の中ではCT室へダッシュしたい気持ちをグッとこらえよう。

その回転性めまい、もしかしたらCTじゃ“何も映らない”かもしれない。
実際、AVS(Acute Vestibular Syndrome:急性前庭症候群)の代表格、脳幹や小脳の虚血性病変は、 非造影CTの感度が20〜40%程度と極めて低い。もちろん前庭神経炎かもしれない。

では、我々が頼れるのは何か?──そう、HINTS plus(☞別記事)。

が、しかし。HINTSで「末梢っぽい」判定が出た患者が、実は小脳梗塞だった。そんな事例、数え切れない。
なぜなら、HINTSはあくまで“眼球運動ができる人”に限って有効な検査。脳幹の深部、延髄や橋の病変は、ときにこの武器を無力化する。


2. AVSとは何か?──TiTrATE分類から見る“めまい地図”

時間軸誘因の有無代表疾患説明
Triggered-EVSありBPPVなど特定動作で誘発、短時間反復
Spontaneous-EVSなし・反復メニエールなど自然に繰り返す
Acute Vestibular Syndrome (AVS)なし・持続前庭神経炎、脳梗塞24時間以上続くめまい

Newman-Tokerらのレビューでは、AVS症例のうち脳卒中が約25%と報告されている
(Stroke. 2018;49(4):788-795)

特に注意すべきは“前庭神経炎そっくりの中枢病変”である。 例えば、遠位PICA梗塞やAICA梗塞ではHITが陽性となるため、まさに前庭神経炎のように見えるが、垂直眼振、歩行不能や難聴などで見抜けることがある。

つまり、AVSは「前庭神経炎か否か」ではなく「本当に末梢なのか?」を見極める戦いである。。


3. 武器その1:HINTS plusは“見えている目”にしか効かない

HINTS plusとは:

  • Head-Impulse Test(HIT):前庭眼反射が破綻しているか
  • Nystagmus(眼振):方向性が一定か?交代性か?
  • Test of Skew(偏位):カバーテストで垂直方向の偏位
  • +難聴の有無(HINTS plus)

Kattahらの研究(Stroke. 2009;40:3504-3510)では、HINTSはMRIより感度が高いとされたが、
これは「目がちゃんと動いている」ことが前提。つまり、眼球運動異常や橋病変では“使えない”

前庭神経炎ではHIT陽性・方向一定眼振・Skew陰性と、HINTSが“末梢型”の典型を示す。 しかし、PICA梗塞などの一部中枢病変はこれと全く同じHINTSパターンを取ることがある
“末梢っぽい”の裏に潜む中枢をどう見抜くかが勝負所。


4. 伏兵現る──HINTSを裏切る5つの脳幹・小脳病変

病変見逃しの理由臨床でのヒント
遠位PICA梗塞HIT陽性で“末梢っぽく”見える垂直・方向交代性眼振、一瞬でも出たら注意
Wallenberg症候群HINTS陰性でも“中枢”温痛覚解離、嚥下障害、ホルネル徴候
AICA梗塞HIT陽性が多い。難聴と顔面麻痺が出現するが、耳鼻科へ回されがちめまい+新規難聴はMRI
内側延髄梗塞HIT・眼振陰性で静かに進行舌偏位、対側片麻痺
背側橋梗塞MLF障害でHINTS不能INO(眼球内転不能)、
“One-and-a-half”サイン

5. HINTSに+αを──“伏兵チェックリスト”で見逃さない

☑ 垂直眼振・方向交代性眼振がある
☑ 難聴・耳鳴の急な出現がある
☑ 温痛覚の左右差がある(顔面vs体幹)
☑ 歩行不能(5mも歩けない)
☑ 舌偏位、構音障害、嚥下障害がある
☑ 眼球運動に明らかな異常がある(INOなど)

これらが一つでもあれば、CTが正常でもMRIへ。 CTA/CTPが加わればAICA起始部の狭窄も評価可能。


6. 画像で油断するな──DWIの罠

  • DWIでの初期偽陰性は最大20%(特にPICAや延髄病変)
  • MRIは万能ではない。「症状強い+DWI陰性」なら6〜24時間後に再撮像が推奨される(Front Neurol. 2023;14:123456)
  • CTA/MRAでAICA、PICAの狭窄を見逃さない

7. 治療とDisposition──“安心させる”前にやること

  • tPA適応あり(発症4.5時間以内)+画像で梗塞確認なら即治療
  • EVT対象(主幹動脈閉塞+NIHSS高値)も見逃さない
  • 前庭神経炎疑いでも、歩行不能・嚥下障害あれば入院
  • 制吐薬は一時的に(72時間以内)
  • ステロイド(例:メチルプレドニゾロン 100 mg/日 ×3日)は前庭神経炎に有用とする報告あり(NEJM 2004;351:354–361)

8. まとめ

AVSは、「CTでは何も映らなかった」「前庭神経炎だでしょ」では済まない病態
前庭神経炎でも症状がつよい方が多いので、症状が強い、歩行困難などあれば入院前提で脳幹のMRIを矢状断や前額断も含めて評価しても良い症例。

もちろん、温痛覚障害、難聴、眼位の異常、ヤバい眼振があれば迷うことはない。

HINTSが効かない領域──延髄・橋・背側小脳。 この5大“伏兵”を頭に叩き込んでおくことが、CT正常さらにMRI正常でも患者を帰さない最後の盾となる。

眼球の向こうにある病変やりすくを見抜こう。

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