集中治療(ICU)における血糖管理

看護師
看護師

先生、血糖が250mg/dlなんですけど、どうしましょう?

医師
医師

えっと。とりあえず、経過観察で。。。

急性期の血糖コントロール、困ったら糖尿病内科の先生に相談してしまう。あるある。

自分でも目標設定や方法がいまいち整理できていないなって感じることありましたので集中治療において、「どのような視点」で、「どのように行う」のが良いか、ご紹介します。

救急外来では低血糖、高血糖を覚知して、バックグラウンドにどのような疾患があるのかを診断し介入します。
例:敗血症、薬剤性低血糖、糖尿病性ケトアシドーシス、高血糖高浸透圧症候群 など

そのあと、疾患の治療、全身管理をする集中治療域では以下の原則が重要です!

3つの原則

  1. 易感染性、創傷治癒遅延、死亡率上昇などの関連が報告されている高血糖は避けたい
  2. 高血糖を避けるあまり治療のあまり低血糖を起こすことは良くない(死亡率上昇)1)
  3. 急激な血糖の変動を避ける

これ踏まえた上で、まず「血糖を上下させる要素」「目標血糖値」「実際のコントロール方法」を順にみていきましょう。

患者病態と状況の確認 ~ 血糖を上下させる要素に関して知る ~

何が血糖値を上げる要因になっているんでしょうか?

糖尿病などの基礎疾患はもちろんです。
しかし、ICUでは様々な要因が血糖上昇を引き起こします。

まず、感染、外傷、手術などのストレスによるホルモンの異常(コルチゾール、エピネフリン、グルカゴン、成長ホルモンなどの上昇)、高炎症によるサイトカイン放出はインスリン抵抗性を上昇させ細胞内への糖の取り込みは低下します。また異化亢進(糖新生)、グリコーゲン合成低下などを起こします。

また、血圧維持のためのカテコラミン、治療のためのステロイド投与過栄養(overfeeding)など医原性に高血糖が起きるということは意識しておかなければなりません。

低血糖に関しては神経性やせ症(AN: anorexia nervosa)などの低栄養状態のバックグラウンドや副腎不全、相対的副腎不全(ステロイドuser)に加え、厳格な血糖管理による医原性低血糖は避けなばなりません。

目標血糖値

様々な研究が知られていますが結論が出たわけではないので今後の研究には注目しましょう。
今のところの現場では目標血糖値 = 150-180mg/dlが一般的といえそうです(2021年時点)。
メタ解析2)もありますが研究で有名なのは下記などがあります。

【Leuven Ⅰ trial (外科系)3) 】80-110mg/dl (Intensive Insulin Therapy: IIT)で管理された群 は 従来の180-215mg 管理群と比べ 、ICU死亡率、院内死亡率ともに有意に低下した。

【Leuven Ⅱ trial (内科系)4)】80-110mg/dl (Intensive Insulin Therapy: IIT)で管理された群 と 従来の180-215mg 管理群と比べ 、院内死亡率の有意差なし。

上記trialの問題点5):単施設で盲検化なし。Early termination。Ⅰtrialは開心術患者が60%以上、高カロリー輸液の使用、低血糖の増加  

【VISEP trial(2008)6)、Glucontrol study(2009)7)、NICE-SUGAR study(2009)8)
VISEP trialは敗血症患者を対象にしており、IITの有意な有効性は示せず、Glucontrol studyはIIT群の死亡率上昇傾向により研究中止。
NICE-SUGAR studyは大きな多施設RCTでIIT(80-108mg/dl) vs. 通常血糖144-180mg/dl。
IITで90日死亡率上昇を報告した(27.5% vs. 24.9%, P= 0.02)

また血糖の変動が激しいと患者予後に悪い影響を与える可能性が報告されています9)
よってなるべく変動は少なくした方がよいと思います。

血糖コントロール方法

【測定】ベットサイド型簡易血糖測定器は誤差を生じやすい(貧血、低酸素では高値に出る)10),11)

もっとも信頼出来得るのが中央検査室で測定された血糖値(血漿糖濃度)であるが、現場では誤差の少ない血液ガス分析装置によるものが現実的であると思う。

【インスリン投与】ICUではインスリン持続が適応となることが多いです。定期打ち、定期インスリンスケールも考慮されるが急性期は高血糖、低血糖のリスクが高いため注意が必要です。

ある救急医の頭ん中

・インスリン輸液内混注:サポートとして高カロリー輸液を投与中の場合はブドウ糖が入っている輸液に対してブドウ糖5-10gに1単位の速効型インスリンを混注することもあります。ルートやバックないに吸着されると言われているので計算上、別ルートで持続インスリン投与するより効果が悪いイメージです。

・別ルート持続注射:各施設のプロトコルがあると思うのでそれに従うが安全だと思います。
持続インスリン投与量平均が2単位/hrくらいの患者では1単位ボーラスあたり血糖は25-50mg/dl程 度下がるイメージを持っています。僕の頭ん中にある例は下記のような感じ。

ヒューマリン®Rなど速効型インスリン1単位/mlに統一(点滴で糖負荷がない場合はボーラス量に注意)

低血糖時指示もしっかり用意する必要があります。インスリン投与を中止して50%ブドウ糖を20-40ml投与し、再度血糖の測定をより注意深くします。

*上記はあくまで例でインスリンの開始量、増減量は患者の状態をみて変更する。
インスリンは血糖だけでなくK低下もありますので注意。

注意点として血糖上昇には前述の研究でも経静脈的高カロリー輸液(PN)の影響が言われています。

集中治療域での栄養の研究でも海外の研究は多くBMI(Body Mass Index)の差、人種差、糖尿病(インスリン抵抗性/分泌の傾向差)は考慮しなければなりません。overfeedingの指標はないですがインスリン量が増え続ける、速効型インスリン(ヒューマリン®R)などが4単位/hr以上必要などであれば栄養の制限も考慮したほうがいいと考えています。

私は可能であれば早期経腸栄養(EN)を優先し、数日はPNは急ぎません(患者さんの経過によりますが)。

まとめ

やはり、血糖管理は重要。

高血糖は避けが低血糖を起こすリスクを負ってsevereに管理する必要はない。
急激な血糖の乱高下も避けよう。
目標血糖は144-180mg/dlがよさそう。

コントロール方法はICUでは持続インスリンが良し。

今後、近い将来、人工膵臓に自動持続的血糖測定システムからインスリン投与をadjustしてくれる機器が安価で出てきてオートメションになるかも。そうすれば患者さんも私たちも恩恵を受けるかもしれないですね。

それまで血糖管理、日々精進!!!

【参考文献】

1) NICE-SUGAR Study Investigators, Finfer S, Liu B, et al. Hypoglycemia and risk of death in critically ill patients. N Engl J Med. 2012;367(12):1108-1118. doi:10.1056/NEJMoa1204942

2) Griesdale DE, de Souza RJ, van Dam RM, et al. Intensive insulin therapy and mortality among critically ill patients: a meta-analysis including NICE-SUGAR study data. CMAJ. 2009;180(8):821-827.

3) Van den Berghe G, Wouters P, Weekers F, et al. Intensive insulin therapy in critically ill patients. N Engl J Med. 2001;345(19):1359-1367.

4) Van den Berghe G, Wilmer A, Hermans G, et al. Intensive insulin therapy in the medical ICU. N Engl J Med. 2006;354(5):449-461.

5) Egi M, Finfer S, Bellomo R. Glycemic control in the ICU. Chest. 2011;140(1):212-220.

6) Brunkhorst FM, Engel C, Bloos F, et al. Intensive insulin therapy and pentastarch resuscitation in severe sepsis. N Engl J Med. 2008;358(2):125-139.

7) Preiser JC, Devos P, Ruiz-Santana S, et al. A prospective randomised multi-centre controlled trial on tight glucose control by intensive insulin therapy in adult intensive care units: the Glucontrol study. Intensive Care Med. 2009;35(10):1738-1748.

8) NICE-SUGAR Study Investigators, Finfer S, Chittock DR, et al. Intensive versus conventional glucose control in critically ill patients. N Engl J Med. 2009;360(13):1283-1297.

9) Egi M, Bellomo R, Stachowski E, French CJ, Hart G. Variability of blood glucose concentration and short-term mortality in critically ill patients. Anesthesiology. 2006;105(2):244-252. 

10) D’Orazio P, Burnett RW, Fogh-Andersen N, et al. Approved IFCC recommendation on reporting results for blood glucose: International Federation of Clinical Chemistry and Laboratory Medicine Scientific Division, Working Group on Selective Electrodes and Point-of-Care Testing (IFCC-SD-WG-SEPOCT). Clin Chem Lab Med. 2006;44(12):1486-1490.

11) Kanji S, Buffie J, Hutton B, et al. Reliability of point-of-care testing for glucose measurement in critically ill adults. Crit Care Med. 2005;33(12):2778-2785.


他) Moghissi ES, Korytkowski MT, DiNardo M, et al. American Association of Clinical Endocrinologists and American Diabetes Association consensus statement on inpatient glycemic control. Diabetes Care. 2009;32(6):1119-1131. doi:10.2337/dc09-9029

コメント

タイトルとURLをコピーしました