中心静脈カテーテル【第3章:管理と感染症】

手技教育

【本シリーズ

1.カテーテル関連感染(CLABSI)予防 ──「ゼロは幻想」ではなく「設計」の問題

中心静脈カテーテル(CVC)の挿入後における重大な合併症、それが(中心静脈)カテーテル関連血流感染症(CRBSI/CLABSI)。
ICUにおける医療関連感染の中でも患者の生命予後・入院期間・医療費に与えるインパクトが最大とされ、避けられる感染とされる。
2023年のJECCM(Journal of Emergency and Critical Care Medicine)ガイドラインは、CLABSIの予防を“テクニック”ではなく“システム”で制御せよと再定義【1】


1.1 「セントラルライン・バンドル」の中核要素

CLABSI予防の核、それがセンターライン・バンドル。以下の5項目が、CDCおよびWHOの推奨に基づく標準セット:

バンドル項目実施内容補足
1. 適応の再評価毎日、「まだ必要か?」を確認72時間以上→抜去の検討を
2. 手指衛生挿入・接続・管理前後に徹底WHO 5 Moments に準拠
3. マキシマルバリアドレープ、滅菌ガウン、マスク第2章参照
4. CHGによる皮膚消毒2% CHG in alcoholが推奨PVIに比べ感染率を半減【2】
5. 挿入部位の評価と清潔管理ドレッシングを72–96時間ごとに交換感染徴候あれば即抜去

🔍 補足:これらは単独で機能するのではなく、“同時にすべてを守る”ことでCLABSI発生率が10分の1になることが複数のRCTで示されています【2】

🧠ある救急医の頭ん中

教育・クロルヘキシジン消毒・マキシマルバリア・不要時即抜去。


1.2 抗菌コーティングカテーテル:誰に使うか?

私の確認した限りでは日本では薬事は通ったものがあったが現在は販売中止というのが現状。

抗菌コーティングCVC(chlorhexidine/silver sulfadiazineなど)は、米CDC・IDSAの2011年版ガイドラインでは「留置が長期化する可能性がある場合」「感染リスクが高い患者」に推奨されます。ただし、コストと効果のバランス、耐性菌リスクも踏まえ選択が必要。

少しテーマとはずれるが埋め込み型ポートで銀系無機抗菌仕様のもの、クロルヘキシジンゲル/スポンジの刺入部ドレッシングは存在しており使用している施設もあるかもしれない(私も、以前働いていた施設では使用していた)。


1.3 留置期間と交換タイミング

管理項目推奨エビデンス
ルーチン交換×不要RCTで有意差なし【3】
感染徴候あり〇即抜去ただし新ルートの確保も同時進行
ドレッシング交換〇72〜96時間ごと挿入部が見える透明タイプが推奨

特に“日々の確認と記録”が感染予防の鍵であり、毎朝回診時に「このCVは今日必要か?」と問う文化がCLABSIゼロにつながる。

2.合併症とその予防・対応

中心静脈カテーテルの合併症は、機械的・感染・血栓の3カテゴリに大別される。


2.1 機械的合併症:穿刺から固定まで

合併症頻度(推定)高リスク状況備考
動脈誤穿刺4–9%解剖異常、頸過回旋出血、脳梗塞。血管外科と相談
気胸・血胸1–6%鎖骨下穿刺、陽圧換気中特に左内頸、左鎖骨下側で注意
血腫5–10%抗凝固中、圧迫不十分頸部→気道圧迫リスク
心タンポナーデ0.1–1%未満小児、深く留置心房穿孔に注意
空気塞栓稀(<0.5%)通気状態下の脱接続Trendelenburg体位で予防

穿刺後の出血斑、低酸素、心電図異常は見逃さず、常に「あえて疑う」視点を持つ。


2.2 感染性合併症:前述


2.3 血栓性合併症:忘れられがち。

  • 内頚・鎖骨下での無症候性血栓は約10–20%に上るとされる。
    カテが太い・長い・硬い場合にリスク増。
  • 血栓→狭窄→血流低下→CLABSIリスク上昇、という負のスパイラル

予防の要点:最小限の外径・最短距離で設計。高リスク症例(がん、凝固亢進)では必要に応じ血流評価・D-dimer測定を。

💡Tip:穿刺部痛、片側頸部の浮腫、カテーテルからの“流れの悪さ”が3徴。


3.場面別アルゴリズム

A. 穿刺時に鮮紅色の拍動性血が出た

→ 即抜去せず、針先を残してエコー確認。明らかに動脈なら血管外科コンサルト or 圧迫止血へ。

B. 挿入後、SpO₂低下・呼吸苦出現

気胸疑い。即時エコーまたはポータブルX線(胸膜間距離の消失を確認)。

C. 発熱・バイタル不安定化

→ カテ関連感染を疑い、2セットの血培+カテチップ培養をセットで提出。感染源精査+新ルート確保→抜去が原則。

D. 抜去時に抵抗あり

カテ先端の癒着 or 血栓の可能性。無理な牽引は絶対に避ける。深呼吸・体位調整で再試行、それでも困難なら血管外科と相談。

4.小児・特殊症例──“小さな身体”に“確かな手技”を

中心静脈カテーテルの知識・技術は、成人を前提に構築されてる。しかし、実臨床では体重5kg未満の乳児から、抗凝固中のECMO患者まで、多様な条件でCVC挿入を求められる。
では“サイズも条件も違う”患者群に対してどう安全に対応するか???


4.1 小児症例:大きさだけでなく、“生理と許容量”が違う

【解剖と生理】
血管は浅く細く、虚脱しやすい(特に脱水時)静脈壁が薄く穿刺時に“破裂”しやすい。
心房は狭小で、ワイヤーやカテ先端の迷入によるPVCや心タンポナーデのリスク増大

【サイズ選定

体重推奨カテーテル備考
<5kg2Fr–3Fr経皮でなく静脈切開法を用いる場合も
5–10kg3-4Fr
10–15kg4-5Fr超音波必須。麻酔管理との連携が重要
>15kg5Fr以上成人と同様の手技に移行可能

【実践ポイント】
プローブはリニア(6–13MHz)か高周波マイクロコンベックスで描出
目的血管の内径の1/3以下:3Fr ≒ 1mm ≒ 18G、4.5Fr ≒ 15G
挿入の長さ:100cm以下の場合は(身長/10)-1cm、100cm以上の場合(身長/10)-2cm
トレンドレンブルグ位+鎮静下で穿刺することで“虚脱防止”
ECMO/CRRT:流量確保のため 7–9 Fr(内径 0.23–0.30 cm)以上を検討。
注意:血管外にワイヤーを進めるとすぐに皮下血腫が生じ、穿刺不能に陥るガイドワイヤー挿入は最も慎重に

「Expert consensus-based clinical practice guidelines: management of intravascular catheters in the ICU」(Ann Intensive Care 2020;10:118, PMCID PMC7477021)など改変


4.2 抗凝固状態:刺す前から出血戦略

  • INR >2.0 / APTT >50秒 / Plt <50,000は高リスク
  • 出血コントロールできる穿刺部位(RIJ>FV>SCV)を選ぶ
  • 凝固補正は「可能な範囲で」迅速に

💊 具体的対応策

異常値補正の目安薬剤・手段
INR >2.0<1.5が目標新鮮凍結血漿(FFP)
Plt <5万>5万が望ましい血小板濃厚液、穿刺部リスク次第(個人的には最低2万)
DOAC内服中中止48–72時間後可能なら延期も検討

4.3 ECMO・カニュレーション併用例

  • ECMOカニューレと“競合しない部位”に挿入
  • 脱血・送血ラインと交差すると圧波形干渉や薬剤分布不均等が起きる
  • CVP計測や薬剤投与の信頼性が低下する可能性に注意

Tips:挿入部位の工夫

  • VA ECMO:右内頚と右大腿が使用中 → 左内頚 or 鎖骨下で独立ライン確保
  • VV ECMO:両大腿が閉鎖 → 頸部を第一選択

🧠 補足:CVカテがECMO脱血ラインに近いと、静注薬の全量がECMO回路へ吸引され、全身循環に乗らない事例も報告あり【4】


5.挿入後管理と抜去 ─「帰るまでが遠足、抜くまでがCVC」

CVCは「入れた時点で終わり」ではないです。むしろ、挿入後にどれだけ丁寧に管理できるかが、感染や血栓といった合併症の発生を大きく左右します。

また、抜去の判断を誤ると、不要な感染リスクの延長や、抜去時の合併症(空気塞栓、断裂)を引き起こすことがあります。


5.1 カテーテル先端位置の確認

X線確認のポイント

挿入部位理想的先端位置備考
Rt-IJV、Rt-SCVcarinaの下が下限心房迷入を避ける
Lt-IJV、Lt-SCVcarina+1椎体下上大静脈(SVC)下端
FV第5腰椎レベル下大静脈への合流点
感染リスク高いため短期使用が原則(48–72時間目安)

5.2 日常管理のポイント

① ドレッシング管理

  • 透明フィルムで穿刺部が常に視認可能な状態に(出血がる際などはガーゼも可能であるが一時的に)
  • コストパ次第であるがクロルヘキシジン(CHG)含有スポンジ or ゲルも推奨される(Timsit et al. JAMA 2009, Cochrane 2015)。
  • 交換はガーゼの場合48時間以内ごと、滲出・剥離あれば即時交換。透明フィルムやCHG含有タイプは7日ごとが目安

② ルーメン使用記録・ロック

  • 使用するルーメンは用途を固定(昇圧・輸液など)
  • 使用後は生食でflash→ロック剤(ヘパリン or 生食)注入
  • 免疫抑制状態や多剤耐性菌によるCRBSI既往がある場合は抗菌薬+抗凝固薬(例:バンコマイシン+ヘパリン)をルーメン内に封入。

5.3 抜去の判断と手順

抜去判断

  • 不要なCVCは1日でも早く抜くことが最大の感染予防
  • 以下の場合は即抜去検討:
    • 発熱・血培陽性(CLABSI疑い)。
      Differential Time to Positivity:同時に採取したCVCルーメンからの血培 vs 末梢静脈からの血培⇨この2者の陽性になるまでの時間差CVCの方が2時間以上早ければ、CRBSIの可能性が高い
    • 挿入部位の発赤・疼痛・滲出液
    • CV使用目的が消失した場合

抜去手技と注意点

  1. 患者をTrendelenburg位(頭低位)に
    └ 空気塞栓防止
  2. 吸気停止(最吸気時)のタイミングで静かに抜去
    └理論上呼気終末で抜去できれば最も良いが、実臨床では「呼気終末」と言っても、患者が本当に“呼気終末で静止”できるとは限らず、逆に「抜こうとした瞬間に思わず吸ってしまった」ということが最大のリスク=空気塞栓の主因に⇨最吸気で息を止めさせる方が合理的かなと私は思う。
    人工呼吸器の場合は吸気時が陽圧であり、PEEPもあるので基本安全に抜けるだろう。
  3. 2分以上の圧迫止血+気密ドレッシング貼付
    └ 出血・皮下血腫・空気吸引防止

🧠 Tip:抜去直後に呼吸苦・SpO₂低下があれば空気塞栓を強く疑う。100%酸素投与+左側臥位+頭低位へ。


6.教育と品質改善 ──「上手くなる」から「仕組みを変える」へ

中心静脈カテーテル(CVC)の挿入は「術者の腕次第」。
しかーし、求められるのは“個人技術の習得”に加え、“再現性のある安全体制”の構築。教育の質がそのまま患者の安全性に直結する!


6.1 シミュレーション教育の導入

  • 穿刺トレーナー、エコーファントム、ワイヤー挿入シミュレータなどの活用が有効
  • ベッドサイド実習の前に、最低3症例の模擬経験を積むのが理想
  • 「何が見えて、どう動かしたか」をログ記録+振り返りする仕組みが重要

💡 補足:JSAやACPガイドラインでも、CVC教育におけるハンズオンシミュレーションの必須化が提唱されています【5】


6.2 チェックリスト・ログ・ピアレビュー

  • 標準手技のチェックリストを使用し、合併症発生要因の“見える化”を行う
  • 手技記録に「術前プラン・体位・合併症の有無・抜去時評価」などを残す
  • 相互評価をネガティブな指摘でなく「改善と振り返りの文化」に昇華させる

📌 Tip:「カテが刺さった」で記録を終わらせず、“抜くまで”の質も可視化する視点が重要。


CVC三部作 おわり

第1章では「刺してよい人」と「刺してはいけない場面」を。
第2章では一本の針とワイヤーに宿る、繊細な技術と思考の軌跡を。
そして第3章で、“刺したあとの責任”を勉強しながら記載しております。

おそらく医師や看護師であれば誰しもかかわるCVC挿入。出来たらかっこいい。それだけではない。患者さんの安全のためここまで考えることがあるのかCVC。自戒の念もこめて若手の先生の一助になりますように。

しかし、分量多くて草。。。

📚 参照文献

  1. Liu C, et al. Clinical practice guidelines for central venous catheter management. J Emerg Crit Care Med. 2023;7:14.
  2. Maki DG, et al. Comparative efficacy of chlorhexidine, povidone-iodine, and alcohol for preventing infection. Lancet. 2001;357:2072–5.
  3. Raad I, Hanna H, et al. Impact of routine replacement of central venous catheters. Ann Intern Med. 2003;139:315–23.
  4. 日本麻酔科学会(JSA). 安全な中心静脈カテーテル挿入・管理のためのプラクティカルガイド. 2017.
  5. 日本麻酔科学会. CVC教育における標準化と評価システム構築. https://anesth.or.jp
  6. JCQHC. 中心静脈カテーテル挿入・管理時の安全ガイドライン. 2020年.
  7. O’Grady NP, Alexander M, et al. Guidelines for the Prevention of Intravascular Catheter-Related Infections. Clin Infect Dis. 2011;52(9):e162–93.
  8. Froehlich CD, et al. Central Venous Catheter Training: Simulation Improves Success. Pediatrics. 2011;127(3):e776–e782.
  9. Raad I, Hanna H. Prevention of Catheter-Related Bloodstream Infections. Ann Intern Med. 2002;136(11):834–44.
  10. McGee DC, Gould MK. Preventing complications of central venous catheterization. N Engl J Med. 2003;348(12):1123–33.
  11. Walker G, et al. Central venous access in neonates and children. Br J Anaesth. 2018;120(4):556–66.

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