【救急×高K】高カリウム血症マネジメント攻略「5R」

Tips

導入──その QRS、30 分後に閉じる地雷

――70 代、慢性腎臓病、β遮断薬内服中の男性が、体調不良を訴えて救急外来へ。血液ガスで K⁺ 6.8 mmol/L、心電図には幅広い QRS…。
さて、あなたの次の一手は?

「高カリウム血症は 60 分で VF へ転ぶこともある」──これはただの比喩ではない。急性期の高Kは、心電図変化の有無にかかわらず、電気嵐の前兆なのです。[PMID: 30820692]

今日のミッション

疑う → 守る → 下げる → 追い出す+予防──この 5 動作「5R」を 30 分以内 に完遂し、心筋を守り切る。これが今回のゴールです。

🧠ある救急医の頭ん中

「高Kかも?」と思った時点で、すでに時計は動き出している。Do the 5R!
そのK、本物か? 心臓は守られているか? 透析の相談は今か?本稿で“その判断”をたたき込もう。


Pitfall Radar:まず“偽”を潰せ

溶血による偽性高K⁺の頻度は20〜25%(特に外来・緊急採血に多い)である。本来は正常でも「K⁺7.0」と報告されるケースもあった。[PMID: 33207176]

血液ガス ≠ ゴールドスタンダードであることは重要。急ぎで見るのは非常に良い血液ガス検査。しかし、ヘパリン量過大 or シリンジ内で微細溶血のため血液ガス検査は偽高Kになりやすい

●逆に中央値も時間が経過しすぎると血液ガス分析より0.3 mmol/L程度上昇するといわれている。➡どっちもあるので注意ということか。[PMID: 20157454]

●「無症候性」慢性高K⁺もありうる。高KにおけるECGの感度は34–43 %であり、ECGが問題なくても注意が必要。K⁺ > 6.0 mmol/L なら ECG 正常でも処置を開始[PMID: 11043630]
T波変化洞不全房室伝導障害の心電図変化が重要。
逆に「有症候性」は低くても注意。

●他、絶食、家族性偽性高K血症、さっき野菜ジュース飲んだなど

🧠ある救急医の頭ん中

偽性高カリウム血症においての心構えは偽性だと疑うことも重要であるが、それと同等くらい重要なのは「どうせ、いつもの採決の時の溶血で上がっているだけだろう。」と高を括り、中央検査室からの検査待ちにして、患者を放っておかないことだ!!!
➡モニタリング、ECG確認、再採血して血液ガス検査で再検査!


病態生理「こうやって起こる高カリウム」:BRASH 症候群含む

腎機能障害に伴う排泄不足の他に知っておく必要があるのは、アシデミア・組織崩壊・薬剤(RAASi/NSAIDs/β遮断薬)の三本柱が Na⁺-K⁺ポンプ を阻害し、細胞外に K⁺ が流出する病態。これが 活動電位の短縮 → 不応期の消失 → VT/VF を誘発します。

さらに、薬剤性も絡んだ病態としてBRASH 症候群(Bradycardia, Renal failure, AV-blocker, Shock, Hyperkalemia)は、緩徐に進行する分、気づいたときにはギリギリで、CaCl₂+インスリン+透析の“ジャンプスタート”が必要になることも[PMID: 33133361]。

BRASH 症候群はがCaチャネル遮断薬やβ遮断薬+高Kで相まって循環不全、不整脈をきたすためテント状T波やP波の減高(消失) 、PQ時間の延長、wide QRSなどがなく、直で徐脈や不整脈が起きやすいことになります。またカリウム値は5~6台mEq/Lであったとしても重篤なじょうたいになることもあるので注意が必要です。あと脱水による腎機能障害なども関連してるって言われてますので夏場には多くなるかもしれません。


“5 R” Algorithm──30 分完結シナリオ

【R1 Rule-out:まず“偽”を否定せよ】

  • 処置:2本目採血+血ガス
  • 目的:偽性高K⁺(特に溶血由来)を否定する
  • エビデンス:偽性率 20%超 [PMID: 33207176]

【R2 Resist:膜を守れ】

  • 処置:CaCl₂ 10 mL(10%)静注 = カルチコール®8.5%5ml を2-3本、2分で再投与可
    ※ジギタリス中毒患者はFab 抗体は日本なかったと思うので、不整脈がある場合などはカルチコール slow IV(5 min 以上でゆっくり)検討。
  • 目的:心筋の安定化(VF/VTの予防)
  • エビデンス:ACLS “H’s & T’s” で first-line(ACLS 2025)

【R3 Relocate:K⁺ を細胞内に避難】

  • 処置
    • GI療法:インスリン 10U + 50%ブドウ糖50ml 25g  静注…低血糖に注意
      → ΔK −0.8 mmol/L(15分)[PMID: 39761907]
    • サルブタモール 10mg 吸入(ベネトリン®吸入液0.5% 2 mL)
      → ΔK −0.6 mmol/L(30分)[PMID: 10084465]
    • インスリン、サルブタモール併用で −1.2 mmol/L
  • 目的:K⁺を血中から細胞内へ一時避難

【R4 Remove:体から出す】

  • 処置
    • フロセミド 40mg~ 静注
    • SZC 10g(商品名:Lokelma®) 内服 → −0.4 mmol/L /1h [PMID: 32149451]
    • 透析:数時間で正常化
  • 目的:体内K⁺の排泄・除去
  • エビデンス:KDIGO Table 27–28

【R5 Review:原因と再発リスクの確認】

  • 処置治療効果確認・RAASi・MRA・NSAIDなどの原因薬剤の中止、病態検索(腫瘍崩壊、横紋筋融解、アシドーシスなど)
  • 目的:救急外来ではカリウム値、血糖値の再検は30分ごとに。再発予防と根治的管理
  • エビデンス:日腎 CKD GL 2024 推奨

🧠 原因除去の重要性

K⁺を一時的に下げるだけで満足せずに薬剤性(RAASi, NSAIDs, カリウム保持性利尿薬など)や代謝性アシドーシス、腫瘍崩壊症候群、組織崩壊、慢性腎不全悪化など、“再上昇”のトリガーを確実に潰すことが、再発予防と ICU 長期化回避につながる。


Evidence Nuggets Box

  • Ca製剤:明確なアウトカム改善のエビデンスは弱いが、“一発逆転カード”としては依然有力(ACLS)。
  • インスリン+Glu:最速&最強。ただし 低血糖リスク 13–20 %[PMID: 30820692]
    ──高血糖患者でない限り、50%ブドウ糖やGI後の血糖follow忘れ厳禁。
  • サルブタモール単剤:発現 20 分、持続 2 時間。喘息患者のネブ残りで代用もOK[PMID: 10084465]。単剤では効果薄との報告もあり、GIと併用を検討。
  • NaHCO₃:pH < 7.2であれば有用だが、ΔK は限定的。使用は選択的に[PMID: 1552710]。

Special Scenarios(番外ステージ)

  1. BRASH:Ca製剤→高用量インスリン→早期 HD の“ジャンプスタート”が命を救う。
  2. Tumor Lysis/Crush Injury:尿量確保+レジン併用、HD の閾値は K⁺ > 6.0 でも即適応。
  3. DKA:既にインスリンが滴下中。追加ボーラスは避ける。
  4. Digoxin中毒:Ca製剤 “stone-heart” は神話。低速投与なら問題なし([PMID: 19201134])。

ICU 延長戦略

モダリティ適応メリット
IHD(4 h)K⁺ > 6.5 + ECG異常 or 持続的にK⁺再上昇最速ダウン、酸塩基補正も可
CRRT不安定 hemodynamics/細胞崩壊持続リバウンド抑制、24 h で −2〜-4 mmol/L
SZC / PatiromerRASi 継続希望 or 軽度高K管理再上昇ブロック+便秘少(KDIGO)

🚩 透析導入の判断ポイント

  • K⁺ ≥ 6.5 mmol/L + 臨床的に必要または心電図異常
  • 保存的治療での改善が不十分:保存で粘りすぎないよう効果なければ移行
  • 腎機能がベースで低下、かつK⁺クリアランス困難、アシドーシス、溢水、中毒の要素ある場合つまりは緊急透析のAIUEOは一つのポイント。
    Acidemia、Electrolyte imbalance、Intoxication、Overload、Uremia
  • TLS / 横紋筋融解など持続的な K⁺放出が予想される➡CRRTも検討。

「迷ったら HD 検討」──これが ICU では鉄則です。


まとめ:30 Minutes Rule のススメ 5R

  1. Rule-out:偽性高K⁺を否定せよ
  2. Resist:CaCl₂(グルコン酸カルシウム) で心筋をシールドせよ
  3. Relocate:インスリン+β₂刺激で K⁺ を細胞内に避難させよ
  4. Remove:利尿・吸着薬・HDで体外へ追放せよ
  5. Review:原因薬剤をレビューし、再発予防せよ

臨床の高K地雷撤去、これで完了。

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