失神の「し」──救急医のためのリスク評価と現場対応

医療教育・診断力UP

 失神(syncope)は救急受診の2〜3%を占め、何より厄介なのが、その原因の幅広さ──迷走神経反射から致死性不整脈、肺塞栓、脳出血まで。。。Framingham Studyでは、全失神例の約10%が心原性とされ、心原性失神は1年死亡率が3割近くに及ぶという報告もあります。(DOI: 10.1056/NEJMoa012407)
 一方で、反射性や起立性低血圧が原因の“良性失神”も多く、不要な検査や入院は避けたい。つまり、失神のマネジメントは「見逃さないための厳しさ」と「許すための半分の優しさ」を併せ持った、バファリンのようなバランスが問われる領域なのです(‘ω’)。UpToDateや欧米ガイドラインでは、病歴・起立試験・心電図・トロポニンなどを組み合わせ、短時間でリスクを層別化し、対応を決定することが推奨されています。

さて、あなたが今、目の前の患者に対して問うべきことは──「この失神、心臓か?それとも、帰宅させていい失神か?」

前提としてprediiction ruleで「コレが絶対おすすめ」がない

みんな大好き失神のPrediction Rule(予測ルール)は臨床で得られる複数の変数を用いて失神患者の重大イベントの発生リスクを層別化する判定式であるが、有名どころでSan Francisco Syncope Rule (SFSR)Canadian Syncope Risk Score (CSRS), ROSE Rule (Risk stratification Of Syncope in the Emergency department), OESIL Score, EGSYS, EGSYS 2などがある。

●SFSRは非常にシンプルかつ高感度(感度96%、特異度56%➡外部妥当性に課題あり; 感度80%台に落ちる報告も)→ 5因子:心不全、Ht<30、心電図異常、息切れ、収縮期血圧<90 という「即判定」しやすい構成
●CSRSは電子カルテ支援があれば有用→ トロポニンやED最終診断も含めるため、数値化の客観性が高く、カルテに統合されれば判断を後押し。カナダ国内で良好な外的妥当性(AUC 0.88)、日本含む他国でのvalidationは進行中

【San Francisco Syncope Rule (SFSR)】
目的:重篤なアウトカム(7日以内)を予測する
●リスク因子(CHESS)
C: CHF(心不全既往) 
H: Ht <30% 
E: ECG異常 
S: Shortness of breath(呼吸苦)
S: Systolic BP <90 mmHg(収縮期血圧低下)

特徴:感度は比較的高いが、特異度がやや低い(False positive多め)

【Canadian Syncope Risk Score (CSRS)】
目的:30日以内の重篤イベント予測
●スコア項目(-3〜+11点)
既往歴:心疾患(+1) 心電図異常(+2)
トロポニン上昇(+2)救急外来で失神(-2)
前駆症状(-1〜+1)収縮期<90,>180)(+2)
➡低リスク(0点以下)中リスク(1–3点)高リスク(4点以上)
特徴:失神診療の近代兵器。

【ROSE Rule 】
目的:失神患者の院内死亡リスク予測
●リスク因子(BRACES)
BNP>300 pg/mL  徐脈 <50 bpm
直腸診出血  手術/麻酔後の失神
胸痛 ECG異常 SPO2 <94%

特徴:BNPをがっつり組み込んだ唯一のスコア。英国系の香り。

【OESIL Score 】
目的:12か月死亡率予測
●スコア項目
65歳以上(+1) 失神前の前兆なし(+1)
心疾患既往(+1) 異常心電図(+1)
➡スコア0:死亡率0% スコア1:0.8%
スコア2:19.6% スコア3以上:高リスク
特徴:古典派。やや時代遅れ感あるが、簡単かつ覚えやすい。

【EGSYS Score 】
目的:失神の心原性リスク予測
●スコア項目
心疾患既往(+3) 労作時/仰臥位で発症(+3)
前駆症状なし(+2) 異常心電図(+2)
頻拍・徐脈(+2) 失神前に前兆あり(-1)

EGSYS ≥3点で心原性失神を強く疑う
特徴:心原性か否かを絞りに絞るスコア

【EGSYS 2 Score 】
EGSYSの心電図異常を再定義したもの
✅ 完全右脚ブロック・左脚ブロック(新規)
✅ 心筋梗塞後の波形変化(QSパターンなど)
✅ 伝導異常(例:2度AVB、CAVB)
✅ Brugadaパターン
✅ long QT症候群パターン
✅ WPW症候群(デルタ波)
✅ 重大な頻脈性・徐脈性不整脈(例:VT、AF+徐脈)●洞性頻脈や軽微なST-T変化だけでは「異常」としない!

スコア名 | ターゲットアウトカム | 特徴 | メモ
SFSR  | 7日以内の重篤イベント | 感度高め、特異度低め | “とりあえず押さえとけ”枠
CSRS   | 30日以内の重篤イベント | モダン型、点数制 | ERの実運用向き
ROSE | 入院中の死亡リスク | BNP推し! | そもそもBNP取るか問題
OESIL | 1年死亡率 | 古典的でシンプル | 高齢者・心疾患・ECG異常
EGSYS | 心原性失神かどうか | 心臓特化 | 「心臓っぽいか」で使う
EGSYS 2 | 心原性失神かどうか | 精度強化版 | EGSYSをマイルド進化

Prediction Ruleは「診断」ではなく「リスク評価」
→ 本質的には“判断の補助”であり、結局は臨床医の感度と直感が前提に必要
→ ESC 2018:リスクスコアの使用を推奨するも「臨床判断の補助として」限定的な扱い
→ AHA 2017:心原性兆候の拾い上げを重視し、「スコアより病歴・身体所見・ECGが基本」

やっぱ基本は「病歴・身体所見・ECG」

Prediction Ruleはリスク評価にとどめとけ!というのは前述のとおりであるがそのRuleには「病歴、バイタル、ECG」などの項目に重要スコアとして含まれる。つまり、ここの評価が救急外来では外せないわけだ。特に病歴だけは患者本人と目撃者双方の心情も含めた再現VTRが作れるくらい聞くようにと若先生にはお願いしている。

病歴・身体所見

【失神 or てんかん(けいれん発作)】
ここは診療の方向性を決めるうえでとても重要となる最初の分岐点。双方考えながら診療していくが基本、どちらかを病歴・経過であたりをつけ良バイアスをかけて診療することが多い。


➀失神においてもけいれん様運動(convulsive syncope)は20%前後で起こるため、目撃者情報だけでは混同されやすく、てんかんと誤診されることが多い(誤診率は最大20〜30%)
失神:血圧低下/徐脈→脳灌流低下→意識消失
てんかん:脳の異常電気活動による突然の意識消失+随伴運動が本態。
②失神らしさ
➡「前兆としての悪心・冷汗・視界狭窄(特に起立性/反射性)」
➡「失神からの回復が速やか(1分以内)」「痙攣は15秒程度まで。ぴくつきなども」
➡「長時間座位・立位や感情的ストレス時に発症」
心疾患の既往・失神時の胸痛/動悸・家族の心臓突然死(特に若年)
てんかんらしさ
➡ 「前駆症状としてデジャブ、幻覚、異臭」「倒れる前に突っ張った、痙攣した」
➡ 「舌咬傷(側方)」「発作後の疲労感・頭痛・混乱」「発作時の“epileptic cry”」
➡ 朦朧期(postictal)が5〜30分続くことが多い
★ てんかんの診断歴 or 抗てんかん薬使用

・Sheldon R. et al. “Diagnostic criteria for vasovagal syncope based on a quantitative history.” Eur Heart J. 2006.
・Hoefnagels WA. et al. “Misdiagnosis of epilepsy: frequency and consequences.” Neurology. 1991.
・Zaidi A. et al. “Misdiagnosis of epilepsy: many seizures are non-epileptic.” BMJ. 2000.
・UpToDate: Syncope vs Seizure in adults (2025)


【起立性低血圧 or 反射性失神 or 心原性失神】
恥ずかしながら、分類は私もよくわからんくなるので成書に譲りたい(笑)。
しかし、イメージ大事なので私の頭ん中をシェア。

🧠ある救急医の頭ん中

【起立性低血圧】循環血漿量減少」と「自律神経のバランスがくずれた」ら起きる。
重要なのはなぜ循環血漿量が減ったか➡利尿薬効きすぎ?脱水?AAA破裂?出血?立位?など。
なぜ自律神経のバランスが崩れたか➡高齢+Parkinson病+食後、DM、アミロイドーシス、薬剤性
【反射性失神】僕は神経調節性失神と呼んでしまう(ガイドラインではReflex syncopeらしい)。
「迷走神経性」「状況性」と時々「頸動脈らへん触りました」
長時間座位、立位、感情/ストレス/痛みが関与している場合、迷走神経性➡心原性っぽくない症例で病歴がここであれば一旦は”御の字”。
状況性:咳嗽、くしゃみ、嚥下(炭酸飲んだ後とかもある)、排尿、いきんだり(吹奏、重量挙げ)
頸動脈らへん触りました:マッサージ、ネクタイ締めすぎ
【心原性失神】不整脈心臓形態異常(タンポ、大動脈解離、AS、腫瘍、奇形など)、肺塞栓症
くも膜下出血:一過性の頭蓋内圧亢進して失神様に倒れることも。

このように関連ワードを頭に思い浮かべ、「胃腸炎+失神:脱水か?」「飲酒+失神:自律神経?」「腹痛+失神:AAAやただの疼痛時失神など鑑別」「頭痛+失神:SAH?」「A弁領域収縮期雑音+失神:AS?」「胸痛+徐脈:ACS?大動脈解離?」「黒色便+失神:消化管出血?」など病歴や身体所見から鑑別をイメージしていく。

ECG

これは読めるようになりましょうというしかない。やすやす帰宅させてはならないものを挙げておく。
小生も日々精進。
●房室ブロック(症候性WenckebachⅡ、Mobitz II、症候性2:1 AV block、Ⅲ度
●洞停止や洞房ブロック、Af+SSS、40bpm以下の徐脈
二束ブロック(左脚ブロック:特に新規は注意、右脚ブロック+AHB:左軸偏位(±PR延長:三束ブロック))
●心室頻拍(VT)または wide QRS tachycardia
Brugada型ST上昇(V1-V3, coved型は決定的)
QT延長(QTc > 470 ms 男性 / > 480 ms 女性):>475気をつけろ、QTc>500やばい、>525 はい、VFを想起 ➡ 家族歴、薬剤歴、電解質異常、OMI既往
●ペースメーカなどデバイス異常、WPW症候群(短PR+デルタ波)、ACS疑い
●電図のV1〜V3誘導でみられる陰性T、QRSの終末に出現する小さな鋸歯状の波形(イプシロン波)➡ARVC(右室心筋症)家族歴重要。

上記に関しては少し勉強してまた別の記事でシェアしますね。

「もう心電図に関しては分からない!」って人はとても読みやすいので増井伸高先生の「心電図ハンター 心電図×非循環器医 2失神・動悸/不整脈編」を読んでみてと、丸投げしてみたり。私も何回も読んでいます。下に本のリンクは張っておきますね。

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心電図ハンター 心電図×非循環器医 2失神・動悸/不整脈編 増井 伸高 (著)

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ECG以外の検査

ECGで全くの正常であればエコー不要とは言うものの、現場でそう確信できる場合がまあないので私は心臓エコーは行っている。また腹水や胸水、AAAなどの評価も同時に行っている。
貧血に関しては急性出血の場合、検査に反映されないケースもあるがSan Francisco Syncope RuleのHematocrit < 30%は一つ指標になる。もちろん、BUN/Cr比なども消化管出血などを考慮する所見である。電解質は血液ガス検査などですぐ把握できるので診療のコスパはタイパは良い。
トロポニン、D-dimerに関しては必要な判断理由があり、異常時の対応が変わるのであれば検査するが妥当と考える。つまり、トロポニンの経時followをしよう、D-dimer上昇あれば造影CT行こうというのであれば採るという意味である。
ERでは帰宅時には特に最後、立位歩行できるか?簡易tilt試験で血圧低下や脈拍上昇がないことを確認して帰宅させている。

まとめ

失神患者に対応するたびに、我々は“推理小説”の探偵のような気分になります。現場で与えられるのは、数分の情報と限られた検査。そこから真犯人──すなわち命に関わる原因を突き止め、不要な入院や過剰な検査を避けるためには、目の前の症状だけでなく、その“背景”を見抜く力が必要です。

Prediction Ruleはあくまで補助輪。最後の判断を下すのは、問診、身体所見とECGを駆使して戦うあなたです。

「この失神、心臓か?それとも、帰していい失神か?」

その一言を口にしながら、今日も“心臓”に手を当てて、失神と向き合っていきましょう。
ドックン💖

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