45歳 女性 主訴:めまい 嘔気
前日の朝よりめまい症状を発症し、その後、嘔気、嘔吐があった。頭痛も少しあったが寝て安めが改善すると思っていたが改善なし。このような症状は初めて。発症40時間後に救急搬送となった。
めまいはグルグル形式が回る感じですか?頭痛もあると聞いたんですが?
今は回ってません…。左向くと気分が悪いめまいがするんです。あぁ気持ち悪い。
頭痛?今は治まってます…。
動くとめまいがするんですね。左向きがしんどいと。そのめまいはどれくらいの間あるんですか?動いたあと休んでいるとどれくらいでよくなりますか?
ああ、しんどい。休んでいるとグルグルはましになります。1分くらいで。
明かな麻痺なし、構音障害なし、かなりしんどがって診察は不十分。眼振…はっきりしないな。。。病歴はBPPVだな。でも頭痛はおかしいな。CTを…。左小脳半球に出血。。。まじか。CTしといてよかったあ。という症例を昨日経験した。
めまい診療の難しい点は以下の3点
①患者はとても苦しいので問診、診察がしにくい。
②医師は鑑別、理解がしにくい症候なので適当に診療してしまう(大丈夫そうか、そうじゃないか程度のざっくりした診断)。
③神経症状が明らかなものは中枢性としてMRIを撮るし、他は適当に診察しても頻度から末梢性がほとんどであり適当でもうまくいってしまうことが多い。
そんな「めまい」に対してどうしたらいいのか目を回すほど考えるというのも一興ではないか。そう思ってまとめてみた。
めまいを「末梢性」と「中枢性」二分に斬る?
まず最初に詳細を抜きにして「めまいを単に二分して考える」この視点。これには反対せざるをえない。
緊急性がある、後遺症や重篤な経過をたどるなど中枢性めまいの認識は重要であることは言うまでもないが「明らかな神経学的異常所見はないので末梢性めまいだと思います」「CTで異常はないので中枢性は否定的です」という理由で帰宅の方針とされる例があるが、いくら頻度が末梢性めまい>>中枢性めまいであるとしても、これでは見落としが増えてしまうわけで。。。
もう少し細かく、めまいを起こすメカニズムを勉強してエピソードや経過、身体所見から画像検査(CT、MRI)、入院の適応を決めていく必要があろうと感じる。
ではどのように斬っていくか(^ω^メ)・・・
めまいを「自覚症状」で斬る!
めまいと一言で言っても実はいろいろな症状を患者は「めまい」と称する。
一般的なのは「血の気が引くような。目の前が真っ暗になって倒れそう」前失神、「景色が動く、天井が回る」回転性、「体が揺れる感じで気持ち悪い」平衡障害、「フワフワ浮いたような」浮動性などだ。これらの訴えの分類は簡単で診断役に立つ情報であるが、心血管系の疾患でも回転性であると訴えたり(普通、前失神っぽい訴えのはず)、同一患者でも聞くたびにめまいの性状の訴えが変化したりするらしい。 Newman-Toker DE, et al. Mayo Clin Proc. 2008; 83(7):765-775.
Newman-Toker DE, et al. J Gen Intern Med. 2008;23(12):2087-2094.
まあ、めまい患者がpoor story-tellerである可能性(そもそも苦痛下での問診になる)、かつ僕自身がpoor story-listenerになりうる可能性は否定出来ないし、難しい問題だ。
めまいを「エピソード、経過」で斬る!
ある程度の時間軸と症状、所見からアクションを取れるようにするのもいいと思います。
斬り口➀ 急性で救急外来に来院するめまいのうち、第一に明らかに神経学的異常所見がある場合や頭痛を伴う場合は、CTやMRIをせずに帰宅することはほとんどないと思います。もちろん前庭片頭痛、脳幹型片頭痛によるめまいなど、頭痛はあるが脳卒中系(脳出血、血管解離)でないものもありますがまずここは実際の現場では前提となるかと思います。
反面、めまい+頭痛なし+神経学的異常所見なしであればCTのご利益はあまりないかもしれません。
そもそも、「主訴:めまい」のうち中枢性:5%でさらにそのうち脳出血:5%くらい。つまり、少なくとも400-500人の頭部CTを撮ってやっと1人脳出血が見つかるかどうかという頻度なわけで。アクセスのしやすさからCTでまず出血を否定しているところが多いかもしれませんが数字的には理にかなっていないわけですな(施設によってはMRIを撮るというストラテジーで診療しているところもあるかもしれません)。
斬り口② めまい or 眼振が出たりり、治まったりしているのか?眼振がしっかりあるのかは?というのは重要な項目ですね。
●ほとんどのめまいは「動くと悪くなる」ので重要なのは安静にしているとよくなるかという点ですね。また、動くというのは頭位なのか、体位なのか、頸位なのかということと区別するのもコツです。
例:寝返りは大丈夫でも首をまわすと症状が出る→頭位でなく頸位ですね。
●安静にしていても持続するめまい→急性前庭症候群 (acute vestibular syndrome:AVS)
具体的には、末梢性(前庭神経炎)と中枢性(脳梗塞、出血、腫瘍など)ですね。とくにここでは後方循環系の脳梗塞が見つけにくいので12の脳神経の診察がより重要なポイントとなる集団です。
斬り口③ めまいを今まで繰り返しているか?今回初めてか?というのもチェック要!
前庭神経炎、脳卒中、BPPV、突発性難聴はもちろん繰り返す人もいますが、基本単回の認識を持っておくとよいと思います(繰り返すことはありますが)。
逆に繰り返すめまいはメニエール病、片頭痛、起立性低血圧(起き上がってると)、頸性めまい(圧受容体や様々な複合要因、後述の椎骨脳底動脈の狭窄も含むことも)、Bow Hunter症候群(椎骨脳底動脈の狭窄)、前庭発作、外リンパ漏(気圧:咳、鼻かみ/すすり、音)、心原性前失神(徐脈、頻脈)、心因性、薬剤性は短期間に繰り返すことも多い。
ここでのポイントは
・BPPV既往なので今回典型的でないがBPPVだなというような考えは×(ダメ)
・突発性難聴はメニエール病と症状が似ており初回のERでは見分けがつかないことがほとんである
・検査もろくにされていない、耳鼻科医の診断を受けていないメニエール病の既往は嘘とおもって繰り返しに含めない方が得策というようなイメージで上記の鑑別を使用していく感じかなと思う。
めまいを眼振で斬る!
眼振を語るうえでBPPV(良性頭位変換性めまい症)を抜きには語れないわけであるが、あえて詳細抜きで語るという荒業に出よう!BPPVは重要なので別記事でまとめるぞという感じで。
・BPPV:頭位変換眼振で方向交代性水平眼振(注視方向交代ではない)、水平回旋混合性眼振
・他耳性めまい(前庭神経炎、メニエール病、突発性難聴など):方向固定性眼振、眼振側を注視すると眼振が強くなるAlexander’s law
・小脳半球の障害:方向固定性の眼振など一見末梢性めまいに類似する
・小脳虫部の障害:小脳眼球運動制御が脱抑制➡方向交代性背地性眼振(外側半規管型クプラ結石症で見られる)➡これがCPPV(中枢性頭位めまい症)の一つ。
・注視方向によって眼振の向きが変わる:注視眼振で方向性眼振(方向交代性眼振)は中枢性を示唆
➡脳卒中に対する感度38% 特異度 92%
・垂直性眼振:上向き➡延髄や中脳 下向き➡小脳障害を疑う
・定方向性純回旋性眼振➡延髄障害
ここでは実際の眼振で特徴的かつ判別が必要になる所見の動画を示しておきます。
方向固定性眼振
めまいをTiTrATE diagnostic approachで斬る!
TIming, TRiggers, And Targeted Exams.
またこれもあらたな斬り方。
大きく3つ+αに分けている
①誘発性発作性前庭症候群:Triggered episodic vestibular syndrome(t-EVS)
②自発性発作性前庭症候群:Spontaneous episodic vestibular syndrome(s-EVS)
③急性前庭症候群:Spontaneous acute vestibular syndrome(AVS)
+α:何かしらの暴露によるAVS:上記表参照:外傷による脳震盪、内耳震盪/損傷、頚部血管損傷、中毒、薬物副作用など
①t-EVS:何かしら誘因でめまいが出る患者➡まず前失神、起立性低血圧の可能性は問診、体位、頭位で鑑別が出来る。立位座位での血圧低下や眼振がないことを確認する。
➡次に頻度からBPPVをrule in(診断)することが重要。基本1分以内のめまい。Dix-Hallpike法(後半規管型BPPVが8割)、supine head roll test(水平半規管型BPPVが2割弱)で典型的であれば診断できる。
➡頭痛、非典型的な眼振、治療でも改善しないなどはCPPVを考慮してMRIなどの検査が必要である。
②s-EVS:持続するめまいで一過性(救急外来到着時には症状がない場合も続いている場合もある)。メニエール病、片頭痛、パニック発作などが含まれるので既往、病歴が重要。前庭型片頭痛と後方循環系TIAの鑑別には年齢、血管リスクなどが重要。
③AVS:急な発症で症状が強いことが多い。救急外来でも持続していることがほとんど。前述の通り体、頭位を動かして増悪するように感じる。安静時も症状が消失しない。前庭神経炎、脳卒中が鑑別の肝となります。HINTS[Head Impulse–Nystagmus–Test of Skew]で末梢パターンであれば多くが前庭神経炎。特にHead Impulse テストは感度98%、特異度85%とか言われています。脳梗塞では10%程度陽性(末梢神経パターン)に出てしまいます。AICA/迷路動脈領域の脳卒中では陽性(末梢神経パターン、目が遅れる)になってしまうので注意。この部分の脳卒中には難聴が起こることが多いです(難聴の有無がTiTrATE診断アプローチに含まれる理由ですね。)Test of Skewは脳幹病変があると異常にでます。
めまいをHINTS plusで斬る!
HINTS plusはTiTrATEでいえば主にSpontaneous acute vestibular syndrome(AVS)を対象にしたツールである。言い換えると、急に起きた強いめまいで安静時に消失しないようなめまい感で脳神経所見のない、迷う症例とでもいえばいいだろうか。
救急医によるHINTSは中枢性めまいの除外には不十分とは言われているが重要な検査であるので知っておく必要がある。
Nelson JA, Viirre E. The clinical differentiation of cerebellar infarction from common vertigo syndromes. West J Emerg Med. 2009;10(4):273-277.
Newman-Toker DE, Kerber KA, Hsieh YH, et al. HINTS outperforms ABCD2 to screen for stroke in acute continuous vertigo and dizziness. Acad Emerg Med. 2013;20(10):986-996. doi:10.1111/acem.12223
まとめ
救急外来では本当に見逃してはいけないめまいを診断しなければならない。めまいの診療は前述の通り、様々な切り口があるので自分なりの戦略を練って診療にあたってみてほしい。
①前失神などでないか?
②安静時に消失するめまいか?(BPPVのrule in)
③信憑性のある反復めまいの既往や逆に血管リスクはないか?
④AVSであれば明らかに末梢性パターンといえるか?(HINTS plus)
⑤歩いて帰れるか?
以上の事を念頭に再度めまいを見直してみよう。
コメント