序章|厨房(チーム医療)の力学を再定義する
コンサルトは単なる「お願い電話」ではありません。
初療医はスーシェフ、専門医はエグゼクティブシェフ(シェフ)、症例は選び抜かれた食材。この三者が協働し、一皿(=最善のアウトカム)を仕上げる、いわば“厨房連携”です。
スムーズな連携には「料理工程の準備」と「タイミング」が肝心。
たとえば欲しい食材が、必要な形に下処理されたうえでタイムリーに届く――それができてこそ、シェフは本来の腕を振るえるのです。
本記事では、救急外来や総合診療で初療を担う医師が、スーシェフとして専門医(シェフ)にコンサルトを届ける7ステップを、料理工程になぞらえて解説します。

STEP 1 食材を選ぶ(情報収集)
いいですか、スーシェフの皆さん。料理は、素材選びからすでに勝負が始まっているんですよ!
診断に必要な診療に必要になってくるもの、主訴・バイタル・既往歴・検査結果・社会背景はコンサルトにおける「食材」にあたります。
特に「シェフの好み」=専門科や疾患ごとの重要所見(例:整形なら荷重可否、循環器なら心電図やトロポニンなど)がありますから、意識して収集しましょう。
また、「この食材は調味料がいるか?」「どの調理法が合うか?」と考えるように、どの専門科にどうマネジメントしてもらうかを想像しながら情報を揃えるのがスーシェフの仕事です。
情報を取り損ねた場合にもリカバーできるように「患者さんやその家族」が救急外来にいておいてもらうことも重要です
いつでも足りない食材(情報)が手に入るように「農家さん、漁師さん、卸売業者」がそこにいてくれるとありがたいですよね。そんなイメージ。
STEP 2 下ごしらえ(情報の整理)
では次に、揃えた食材をそのまま出すのでしょうか?いや、それではシェフが困ります。
コンサルトにおける“下ごしらえ”とは、主訴・バイタル・既往・社会背景・検査結果をした下ごしらえして、どう整理して並べて置いておくかです。
ここで重要なのが、「話す順番を自分の頭の中の順ではなく、相手が欲しい順に並べる」という意識です。また、スーシェフとして火入れ可能な項目(例:点滴、抗菌薬、疼痛コントロール、診察―検査結果を解釈するなど)は事前に済ませ、“下味付け”としてスーシェフ(初療医)の意見を一言添える(アセスメント・臨床推論)ことも忘れずに。この段階ではある程度診断とアセスメントがなされ、
➀自身で完結し帰宅いただく症例なのか
②外来followをお願いする症例なのか
③入院含め迷う症例なのか
④初療医としては入院をした方がいいと考える症例なのか
が決定してきます。(②)、③、④が基本コンサルト対象になるでしょう。
STEP 3 お客様の人数と腹ペコ具合(緊急度評価)
お客様が多く、腹ペコの場合次第では下ごしらえしている準備がないかもしれません。
とっても腹ペコのお客が来た場合(例えばST上昇性心筋梗塞など)は下ごしらえからシェフ(専門医)を呼んで、スーシェフ(初療医)と共に料理開始(症例対応)です!
パッと見てクレーム(急変)を起こしやすい客を判断して対応が必要です。
また救急外来では患者さんや家族も疲弊します。その状況やかかりつけ度合いや疾患の専門性から疾患への介入を急がない場合も専門家が納得できる理由があれば相談することもあります。
患者さん、家族に優しい声かけとし初療医として説明をしてある程度安心した救急外来滞在時間を過ごせることも専門医が救急外来に診察に来た場合のスムーズさに直結するので重要事項です。
- バイタル・検査/身体所見・現病歴・スコアリングで「いま呼ぶ?あとで呼ぶ?」を判断。
- 迷ったら“救命”に寄せる。呼びすぎより遅らせる方がリスクは大きい。
シェフに料理をお願いするフェーズまでに以下の準備が出来ているか確認。
●患者情報を集め、入院後必要であろう情報をストックしておく:患者家族、ACP、かかりつけ医の情報や福祉状況などは診断+初期治療には直接関わらないこともあるが主治医になってもらう専門医(シェフ)には重要事項です。
●診断と救急外来でのアセスメント、治療で専門医、入院担当医の診療へスムーズに移行できる準備:「そこまで下ごしらえ(情報収集と検査、治療)をやってくれている」と思うとシェフは心置きなく料理が開始できます。逆に「食材のままで人参切ってもいないし、肉を常温に戻してないのかよ。」っと思わせてしまうと実臨床もシェフ気持ち的にも料理(症例)への関りがうまく進まないことがあります。
●最初からシェフの管理下で対応しないといけない食材、料理と判断した場合はその時点相談
例:急性心筋梗塞、発症間もない脳梗塞、ACP/事前指示書(DNAR)などが関わる患者のCPAなど
STEP 4 シェフに声をかける(30~60秒)
声掛け=コンサルテーション電話。ここでシェフ(専門医)へに相談です。
➀名乗る、ねぎらう:「スーシェフのDr.まにまにです。デザートの盛り付け中、失礼します。」
②診断と緊急度と目的:「牛肉のパイ包み焼きが10分で焼きあがります。盛り付けをしていただき、お客さまに提供したいのでお願いします。」
③専門医からの質問:シェフより「前の料理出してどれくらいたってるの?あとソースは出来てるんだっけ?牛肉はフィレ肉だったよね?」など質問があればなるべく答えられるようにしておく。
④専門医が来るまでにすること確認:「私が行くまでにソース温めて、添える野菜を皿に盛りつけといて。」
例:➀呼吸器科医先生。救急科専攻医のDr. まにまに です。ブロンコ検査の合間にすみません。
②肺炎患者の相談良いでしょうか?62歳のADL自立の男性で、数日前からの発熱と咳嗽と呼吸苦で救急搬送され、Xray、CT検査で左に肺炎像があります。酸素投与がマスクで5L/分で必要そうです。原因は尿中抗原、低Na、Pなどからレジオネラ肺炎を疑っています。入院加療の是非に関して相談したいです。」
③>(専)家族来てます?「はい。奥様が。」
>抗菌薬は投与してますか?「当初各種培養を採ってセフトリアキソン1g投与しています。尿中抗原結果が判明してから追加していないのですが、レジオネラなのでレボフロかアジスロか追加しようと思いますがいかがでしょうか?」
>じゃあ、アジスロマイシンでいきましょうか?呼吸状態的にも比較的重症でしょ?CURB65は?
「脱水と呼吸数と意識ももうろうとしてて、3点でしょうか。HCUかICUの手配しておきます。あとはなにかありますでしょうか?」
④>病棟手配はその通りにお願いします。あと、LAMP法の検体と細菌検査室にレジオネラを疑っている旨を伝えて、培地を勘案して痰培養してほしいってお願いしといて。20分後にくらいに救外に行きますのでお願いします。
ここ重要なこうですが、疾患や専門科また個人によって少し重要度の傾向があるので汲み取ることです。ここは繰り返しと人間関係。基本、「っで何?」とならないように「どういう患者ののどういう疾患に対して何をしてほしいのか」をはじめに簡潔に述べることです。
またここも機微ですが方針の最終決定(入院か帰宅か、手術か否かなど)はシェフ(専門医)にゆだねた方が無難です。理由は初療医が一定の方針を強く決定してしまうと専門医が診に来て評価が異なった時に変更しにくいから(患者さんは方針が一転二転しすぎると不安になります)。
また専門医に診察を依頼するにの「これが必要だからこうしてくれ!」と断定して依頼しまうのは専門医の判断を尊重していない状態となり、信頼関係にかかわります。もちろんアセスメント・プランは重要で患者には「入院になる可能性が高いですが専門の先生の診察をいただきどうするか相談させてください」などと含みを持たせつつ説明するほうが良いということです。
STEP 5 シェフ、来たる。仕上げ・盛り付け(専門医の決断)
シェフが到着したら、鍋は渡してもエプロンは脱がないのがスーシェフ。
- 対診=同じ皿を一緒に仕上げる時間。お礼を言う。言われて嫌な人はいない。
「なに?初療したんだからお礼言ってくれ?」それは専門医側の課題であり、関係ない。私たちは目の前の患者を診てくれる専門医に敬意を。 - 質問には即答できる準備を。
- 料理人も調理後のフライパンについたソースの残りを味見し、学びを技術を盗みます。
ここがフィードバックや新しい知見を得るチャンス! - “オーダーシートとカルテ”はレシピ帳、必ずリアルタイムで更新、追加オーダーや同意書取得、カルテ記載を手伝える余裕があればサポートを。
失敗例 3連発 ―焦げる前に回避ください。
料理が焦げる失敗パターン | なぜ起きる? | 対策 |
---|---|---|
入院カンファ風に長々プレゼン | 自分が診療した順番に話してします。“症例クイズ”形式で結論が最後になっている。 | 診断、目的を先に述べて経過や理由を述べる。 |
目的不明の丸投げ | 緊急度と下味付け(アセスメント・臨床推論)が未設定 | なぜ、こうなのかをしっかり深掘り対応する。例:肺炎だ。何故?➡レジオネラ陽性➡抗菌薬投与/追加。高K血症だ➡薬剤性だな➡ロケルマ処方しよう |
ただの伝書鳩 | 自分のAssessmentがゼロ | “仮説+依頼”を必ず1行添える |
まとめ
さて、これであなたも立派な“スーシェフ”ですな。初めは包丁が震えるかもしれませんが、料理が焦げてしまう前に5ステップを思い出してください。
STEP1:食材(情報)を〝旬〟で揃え
STEP2:下ごしらえ(整理)を丁寧にして
STEP3:お客の状態(緊急度)を見極め
STEP4:30秒でシェフを呼び
STEP5:盛り付け補助と敬意で場を温め
この5ステップをしっかりして行い最後には自身でセルフレビュー:次回活かす改善点を確認➡専門医からのフィードバック:不足情報や好評ポイントをもらい➡チーム共有:初療医間で「今週の良コンサルト事例」を共有するなどして成長していきましょう。
これを繰り返せば、専門医から「このコンサルト、うまい!」と言われること間違いなし。次はあなたの厨房で、おいしいアウトカムを“料理”してみましょう。
…あ、ちなみに失敗しても包丁を投げないでくださいね。救急も厨房も、チームワークが命ですから!🍽️✨
コメント