外傷初期治療でのエコーを伝授!extended FASTとその向こうへ【画像あり】

救急外来で外傷を見ない日なんかないですよね?
外傷診療ガイドラインを軸とした診療の流れも勉強しないといけないんですが、その中にあるんですよね。エコー検査。
この記事では焦点を絞った外傷超音波検査、FASTについて述べます。
もちろん、実際できるようになるのが目標ですよ!

extended FASTとは?

八木先生

では質問!

E-FASTの目的って何か説明できますか?

外傷に関連した死亡はご存知の通り、気道・胸部損傷、出血によるところが大きいです1)
致死的な損傷を診断し、同時に治療するPrimary surveyの中で胸部/骨盤レントゲン、超音波検査(FAST)による焦点を絞った画像評価はとても重要になります。

外傷患者は複数の外傷があったり、飲酒していたり、意識が悪かったりして評価が難しい場合があります。それでもPrimary surveyでは 体腔内(特に心嚢、胸腔・腹腔)の出血を迅速かつ正確に経時的変化も評価する必要があるのでエコー検査のいい適応です。これが古典的なFAST2)となりますでしょうかね。

それに胸部の評価、特に気胸の評価を追加した E-FAST (extended FAST ) 3)

その向こう側として、IVCによるボリューム評価4)、骨折の検出5)、恥骨の離開確認6)などに用いられています。

ヤギ先生

外傷の出血評価でエコーの感度・特異度ってどれくらいか分かります?

外傷におけるecho free space (出血など free fluid)の感度は鈍的外傷:73-99%、鋭的外傷28-100%と幅広いです。一方、特異度は94-100%です7)

つまりはエコーで体腔内に液貯留がないと判断しても否定はできない。エコーで 体腔内に液貯留があると判断した場合はほぼ正解。
除外に使いにくく確定に用いやすいということは知っておく必要がありますね。

ヤギ先生

エコーによる気胸検出の感度・特異度ってどれくらいか分かります?

E-FASTではエコーで気胸を見つけにいきます。気胸診断のゴールドスタンダードはCTですが、外傷診療では迅速性、アクセスなどの観点から身体所見、レントゲン検査、エコーが重要になります。

ポータブルX線撮影の気胸検出感度は20-75%程度で特異度は99%。
E-FASTの感度は 49-98%、特異性は 99%。特異度は同等ですが感度にどの研究でも感度に関してはエコーに軍配があがっています7), 8)

E-FASTのやり方

・エコーで見えなければ見えないとカルテ記載する or 検査施行者交代を!
・Morrison 窩、心嚢、脾周囲、左右胸腔、膀胱周囲(ダグラス窩)の出血評価。
・気胸の評価。
・弱みは後腹膜出血。
・繰り返し行うべし!

エコー検査の弱みは前記事参照ですが
・検者による質が差が大きい
・他者との情報共有が他の画像検査より難しい
ということがあるんで、検査して「FAST陰性です」といってしまえばその場の誰もがある程度安心してしまいます。「エコーの観察が不十分だったりけど、まあ、大丈夫だろう」とか「所見、技術に自身がない」場合はそれを正直に共有して、偽陰性の可能性を周知し「リスクを鑑みてCTを撮ろう。」とか「FASTを繰り返そう」など、偽陰性かもしれないという思考を頭の隅に残すようにしましょう。

では実際にの当て方ですが図1参照ください。

プローブ選択
心臓はセクタ(ちっこいやつ)、腹部はコンベックス(でかいやつ)、肺/ 気胸はリニア(平らなやつ)が基本です。しかし、時短する場合はセクタでもコンベックスでもリニアでもどれか1つで各所、評価できると思います。あえて1つに絞るとすると私はコンベックスで当てるかなあ。

図1. E-FASTの当て方
FASTの流れ

①Morrison窩、右胸腔

肝表面に
1cm溜まっている液があれば1000mlほどの液貯留。
2cm溜まっていれば2000mlほどの液貯留を考える。

②心嚢

心窩部から観るのが見やすいが肋間、胸骨左縁で観察してもOK

③脾周囲、右胸腔

脾-腎 境界を観察するイメージではなく、脾周囲を観察するイメージで。脾臓-横隔膜間に貯留することがある。

④膀胱周囲(ダグラス窩)

縦断面、横断面の両方を確認すること。
プローベを当てる角度を変えて観察すること。

⑤胸腔(気胸)

Step1: 前胸部、縦断(頭尾)にプローブを当てる。
Step2: bat sign (こうもりサイン)を確認する。
Step3: Pleural line 上でlung sliding(壁側胸膜と臓側胸膜が呼吸性に動く)があれば正常肺。
Step4: Mモードを用いて海辺サインバーコードサインlung-pointの確認を。

(Lichtenstein et al, 2000 [48]より改変)Gargani L. Lung ultrasound: a new tool for the cardiologist. Cardiovasc Ultrasound. 2011;9:6. Published 2011 Feb 27. fig.6

【Mモード】
A. 正常肺のパターン:seashore sign 海辺サイン。動きのない表層部は波(水平線)に見える。「➡」は胸膜。深部は肺であり呼吸性に肺が動くので砂地(アーチファクト)に見える。
B. 胸膜「▶」より深部も、水平線のみ(バーコードサイン)。動きが全くないことを示している。→気胸
C. 気胸の肺尖部:「⬇」より右はairがあるのでバーコードサイン、左は肺があるのでアーチファクトが出る seashore sign。「」lung-point(空気と肺の間でここが呼吸性に移動する)という。

正常  seashore sign
気胸 バーコードサイン

エコーで IVC、 恥骨離開 、骨折の評価をする

E-FASTの「E」のをさらに追加すると。IVCで体液量評価、恥骨離開の評価、骨折の評価がざっと可能である。

【IVCで体液量の評価指標】
・右房から2−3cm尾側で計測
・2cm以内+呼吸性変動50%以上→CVP≦10

あくまで指標であり、決めつけない。肺高血圧、肺塞栓などは循環血漿量が減少していても拡大している。

【恥骨結合の離開】
オープンブックタイプの骨盤骨折などの診療のポイントとなる。
恥骨結合>2.5cmの離開→後方の靭帯損傷あり」とする。

a Example of a transverse scan of the pubic symphysis performed with a high-frequency linear probe; bc anatomical representation of the pubis at US transverse scans (b) and at CT axial scan of the pelvis (c) with evidence of branched (bc, arrows) and not diastased symphysis (bc, dotted line) in patient with femoral right neck fracture (c, arrowheads) 
Ianniello S, et al. Diagnostic accuracy of pubic symphysis ultrasound in the detection of unstable pelvis in polytrauma patients during e-FAST: the value of FAST-PLUS protocol. A preliminary experience. J Ultrasound. 2020;10.1007/s40477-020-00483-6. doi:10.1007/s40477-020-00483-6

【骨折の評価】

大きな出血源となりうる大腿骨骨幹部骨折など考慮しても良い。

▶右図は外果(くるぶし)の骨折部エコー画像

Crombach A et al. Point-of-care bedside ultrasound examination for the exclusion of clinically significant ankle and fifth metatarsal bone fractures; a single blinded prospective diagnostic cohort study. J Foot Ankle Res. 2020;13(1):19. Published 2020 May 7.

まとめ

E-FASTは胸腹内の出血を覚知すること+気胸の検索に用いる。また他にIVC、骨盤含めた骨折の検索に有効である。エコーの長所は「迅速さ」と「繰り返し可能」などである。それを活かした使用法が望ましい。
E-FASTを用いなければならない高エネルギー外傷例ではじっくりとした網羅的エコー検査では恩恵が受けられない。
限界を知っておくこと、迅速に判断すること、日々エコーでの観察技術向上を目指すことが大切であるわけですなあ。

1) Kirkpatrick AW. Clinician-performed focused sonography for the resuscitation of trauma. Crit Care Med. 2007;35(5 Suppl):S162-S172.

2) Tso P, Rodriguez A, Cooper C, et al. Sonography in blunt abdominal trauma: a preliminary progress report. J Trauma. 1992;33(1):39-44.

3) Kirkpatrick AW, Sirois M, Laupland KB, et al. Hand-held thoracic sonography for detecting post-traumatic pneumothoraces: the Extended Focused Assessment with Sonography for Trauma (EFAST). J Trauma. 2004;57(2):288-295.

4) Ferrada P, Vanguri P, Anand RJ, et al. Flat inferior vena cava: indicator of poor prognosis in trauma and acute care surgery patients. Am Surg. 2012;78(12):1396-1398.

5) Marshburn TH, Legome E, Sargsyan A, et al. Goal-directed ultrasound in the detection of long-bone fractures. J Trauma. 2004;57(2):329-332.

6) Ianniello S, Conte P, Di Serafino M, et al. Diagnostic accuracy of pubic symphysis ultrasound in the detection of unstable pelvis in polytrauma patients during e-FAST: the value of FAST-PLUS protocol. A preliminary experience [published online ahead of print, 2020 Jun 9]. J Ultrasound. 2020;10.1007/s40477-020-00483-6. doi:10.1007/s40477-020-00483-6

7) Wongwaisayawan S, Suwannanon R, Prachanukool T, Sricharoen P, Saksobhavivat N, Kaewlai R. Trauma Ultrasound [published correction appears in Ultrasound Med Biol. 2016 Jan;42(1):339]. Ultrasound Med Biol. 2015;41(10):2543-2561.

8) 亀田 徹,藤田正人,伊坂 晃,他.外傷性気胸の超音波診断,−FAST から EFAST へ−.日救急医会誌. 2012; 23: 131-41.

9) special thanks Dr. Andrew Nanapragasam & Dr. Peter Hewitt.
video by ” VIDEO TUTORIALS — Radiology Nation ” https://www.radiologynation.com/video-tutorials Ultrasound Tutorial: FAST scan [Focused Assessment with Sonography for Trauma]

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