【中毒診療における透析適応】

Tips

──血中濃度に頼らず、症状・内服量から推定する方法──


【はじめに】なぜ透析か?

中毒の緊急現場に立つと、「この症状、血中濃度がわからないけれど、本当に透析が必要か?」と迷う瞬間が必ず訪れます。
透析(血液浄化療法)を考えるのは、
①自然排泄では追いつかず臓器障害が急速に進行するリスクがある場合
②血中から毒物を強制的に除去して生命予後を改善できる可能性がある場合
この二つが重なるときです。

たとえるなら、心停止目前のボートから海に投げ出されている患者さんを救い出すようなもので、時間との勝負になります。


透析適応を考えるべき薬物

血液浄化が効果的な中毒薬には共通する特徴があります。

  • 分子量が小さい(≲500 Da)(透析膜を移動しやすい)
  • 水溶性が高い(脂溶性が低い)
  • 血漿タンパク結合率が低い (蛋白と結合すると透析膜を通過しにくい)
  • 分布容積(Vd)が小さい(≲1L/kg) (=組織に移行せず血中にいる)
  • 血漿濃度が高い(血液の中にいないと除去できない)

これらを満たす代表的な薬物は以下です:

【C】カルバマゼピン(痙攣・昏睡)、カフェイン
【A】抗けいれん薬:フェニトイン、フェノバルビタール、バルプロ酸(血中濃度>850μg/mL or 臓器障害あり)、アセトアミノフェン(重症例・NAC無効例)
【T】テオフィリン(血中濃度≧40 mg/L または中枢神経症状)
【M】メタノール
【E】エチレングリコール
【A】アスピリン/サリチル酸塩(血中濃度≧100 mg/dL または重篤症状)
【L】リチウム(意識レベル低下、痙攣、致死的不整脈、慢性中毒または腎機能障害+血中濃度≧4.0 mEq/L、リチウム濃度>5mEq/L)

👉 つまり、アルコール、リチウム、サリチル酸、バルプロ酸、テオフィリンは、覚えておきたいトップファイブです。

※リチウム中毒:もともと内服している患者が多く急性のリチウム中毒より慢性中毒として考える。
・リチウム内服は尿の濃縮障害が起きるので多飲多尿→中毒、ADL低下→多飲できず脱水必発→禁忌がない限り、輸液は積極的に行う→排泄を最大にすることが推奨
・活性炭にも吸着されない(リチウム以外の内服があれば投与考慮OK)
Brian S. Decker, et al. Extracorporeal Treatment for Lithium Poisoning: Systematic Review and
Recommendations from the EXTRIP Workgroup. Clin J Am Soc Nephrol. 2015; 10: 875-87.


血中濃度が測れない場合──何で判断するか?

症状の重症度と推定内服量から適応を推測します。以下、症状・量ベースでの目安:

メタノール/エチレングリコール:代謝性アシドーシス(AG↑)、視覚障害、腎不全兆候、摂取量 > 0.2 g/kg 
リチウム:錯乱~昏睡、不整脈、腎不全、慢性内服例で > 4.0 mEq/L 相当の中毒
サリチル酸:高度代謝性アシドーシス+呼吸性アルカローシス、耳鳴り・錯乱・肺水腫、摂取量 > 150 mg/kg
バルプロ酸:意識障害、血中アンモニア↑、肝不全兆候、摂取量 > 200 mg/kg
テオフィリン:振戦・頻脈・けいれん・嘔吐・下痢、摂取量 > 15 mg/kg

※これらはあくまで目安ですが、現場での「勘」を数値化するために非常に有用です。


透析開始の“ゴーサイン”

実際にいつ透析を始めるかは悩ましいところですが、次のいずれかに当てはまれば、血中濃度を待たずに動くべきです。

  1. 重篤な代謝性アシドーシス が進行
  2. 腎不全兆候(尿量減少・高K血症)が顕在化
  3. 意識障害 が悪化傾向
  4. 致死量近い摂取 が明らか

こうしたサインを見逃さず、透析開始の判断を早めることが患者さんを救うカギとなります。

なお、“血中濃度を待たずに透析を始める” べき中毒もあります。(例:重度エチレングリコール中毒、リチウムの慢性中毒など)


血液浄化方法の選択

透析と一口に言っても、HD(血液透析)、CHDF(持続的血液濾過透析)、DHP/HA(直接血液灌流:全血‐吸着)など、複数の選択肢があります。基本は HD単独 を第一選択とし、下記のように併用を考えます。

  • HD 単独:迅速に低分子毒物を除去
  • HD + DHP/HA:HDで除去しきれない脂溶性・中分子毒物や、エンドトキシン/サイトカイン吸着に併用
  • CHDF:血行動態不安定例の代替
  • PA(血漿吸着):高蛋白結合毒素や免疫複合体の除去(主に自己免疫疾患や凝固異常症例で検討)

たとえば、カルバマゼピン中毒では「HD+DHP」が文献的にも有効とされていますし、敗血症性ショックでのPMX-DHP(ポリミキシンBカラム)のエンドトキシン吸着療法も実臨床での使用経験が豊富です。
DHP/HAはアスピリン、テオフィリン/カフェイン、抗けいれん薬(フェニトイン、フェノバルビタール)くらいで考慮かと思います。パラコートに早期のDHP/HAも考慮されるが吸収されきってからしてもほぼ意味がないと言われます。

方法特徴
血液透析(HD)第一選択。迅速除去。
DHP/HA(直接血液灌流:全血‐吸着)・カルバマゼピン、テオフィリン、フェニトイン、バルビツレート系(フェノバルビタールなど)の薬物過量除去
・パラコート、有機リン農薬中毒
・アマンイモタケ中毒など
持続的血液濾過(CRRT)HD不能時(例:血行動態不安定)に代替。

→ 多くの急性中毒ではHD単独またはHD+DHPが基本です。


【まとめ】

●CAT MEAL の七大毒物をまず覚えよう。
(CAT MEAL:カルバマゼピン・抗痙攣薬・テオフィリン・メタノール・エチレングリコール・サリチル酸・リチウム)

●血中濃度が測れないときは、症状+推定内服量で適応を推測。

代謝性アシドーシス、腎不全、意識障害悪化 は透析のゴーサイン。

まず血液透析、必要なら血液灌流併用

「毒物は待ってくれない」――有効な血液浄化を、迷わず、迅速に選択できるよう、このフレームワークを活用してみてください。

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