病態機序から理解するRefeeding syndrome(リフィーディング症候群)

救急医療においてERでは初期輸液蘇生療法が重要な役割を果たすことはしばしばであり、ICUでは早期栄養療法の重要性が叫ばれているわけです。これらの療法がなされる際に問題となってくるもの、それがリフィーディング症候群 (Refeeding syndrome以下、RFS)ですね。

簡単に言うと「飢餓(低栄養)状態の人に急な栄養投与を行ったら、体液、電解質のバランスが崩れて重篤な合併症をきたすという病態」です1), 2)
医療介入が間に合って栄養不足で命を失うことが阻止できても、栄養開始で致死的な合併症を起こすというこの病態。知らないではすませられんわけです。

さて、RFSはどれぐらいの頻度でおこるのでしょうか?

Hernandez-Aranda et al. の研究では 低栄養患者の最大で48%にRFSがみられた3) とかRFSの大きな病因である低リン血症は入院患者の5%、アルコール関連、重症敗血症および外傷の患者では30〜50%を超える有病率が報告されています。

こりゃ、他人事違う!

ってなわけで勉強してみましたのシェアさせてください。

ある救急医の頭ん中

良かれと思って栄養を投与して致死的になる病態がある!

【栄養失調 】 インスリン⇩、グルカゴン⇧ →糖新生、蛋白異化、グリコーゲン異化でエネルギーを作ろうとする。ビタミン、ミネラル値枯渇。
【再栄養、水分投与】インスリン⇧、タンパク合成⇧、Na増加→細胞外vol⇧、グルコース取り込み⇧、代謝⇧、チアミン利用⇧、PO4、Mg、Kの細胞内シフト → 低P、低Mg、低K、塩分と水増加、チアミン欠乏 →【RFS】

リスク:神経性食思不振症、化学療法中の腫瘍患者、栄養失調の高齢者患者、術後患者(肥満手術、腸切除など)、ホームレス患者、食事摂取の乏しいアルコール常用者、救急外来の患者(バックグラウンド不明や低栄養状態の頻度は高め)、再栄養前の時点で低K、P、Mgの患者など

特にやばいのは低K、低P。忘れがち、あなどるなかれ低Mg、水分過多、ビタミン欠乏

例:ペプタメン® AF10ml/hr*24hrで開始=360kcal
維持液(ソルデム3A)で86kcal/500ml ビタメジン® やアリナミン®F100注など。
最初水分は1000ml/dayまでにしとこうかなとカスタマイズ。
静脈栄養では水分過多、ブドウ糖負荷が問題となりrefeeding症候群起きやすい。
可能であれば経腸栄養で始める。

refeeding症候群:体の中で起こっていることを知る

決まった診断基準はなかったんですが2020年のthe American Society for Parenteral and Enteral Nutrition (ASPEN) ではコンセンサスとして

❝ A decrease in any 1, 2, or 3 of serum phosphorus, potassium, and/or magnesium levels by 10%–20% (mild RS), 20%–30% (moderate RS), or >30% and/or organ dysfunction resulting from a decrease in any of these and/or due to thiamin deficiency (severe RS). And occurring within 5 days of reinitiating or substantially increasing energy provision. ❞ ASPEN Consensus Recommendations for Refeeding Syndrome

血清リン、カリウム、マグネシム値 のどれかが栄養開始や増量から5日以内に10%以上減少したものを定義とし、これらP、K、Mgの10-20%低下を軽症、20-30%低下を中等症、30%以上の低下もしくは低P、低K、低やチアミン欠乏により臓器不全に至ったものを重症とする。

ってわけでこの定義だと、けっこう当てはまる症例がある気がするんですよね。隠れてますRFS。

病態 (主な役者はインスリン、P、K、Mg、チアミン)

図1:refeeding症候群のメカニズム

ブドウ糖などの摂取がトリガーとなるRFSであるが下記の役者の理解が大切。

【インスリン】
言わずと知れたエネルギー過剰に関連するホルモン。栄養を肝臓・骨格筋にグリコーゲンとして貯蔵する。さらに栄養が余ると脂肪へ貯蔵。またアミノ酸の細胞内への取り込み、アミノ酸→タンパク質の変換を促進。またインスリンはNa/KATPaseを活性化させ、カリウムの細胞内シフトを引き起こす(これ自体はブドウ糖とは関係ない。)。RFSでは再栄養のタイミングで多く分泌されて同化に関わるイメージです。

【P リン:1mmol=0.5mEq=31mg】
リン酸は細胞内の主なミネラルである。さまざまな代謝で酵素、化合物やセカンドメッセンジャーはリンと結合して活性化する。グルコースの代謝経路でもリン酸化は重要。いわずと知れたエネルギー通過、ATP(アデノシン三リン酸)でもリンは登場する。HbとO2の結合でもリンが必要である。
リンは生理学的にいたるところで代謝に関わっているため低栄養で慢性リン欠乏が起こっているところに栄養が負荷され、追い打ちをかけるようにインスリンサージによるリンの細胞内シフトが起れば、それは生理システムに重大な影響を与えるに決まっている。
リンは欠乏しても細胞内から血清に動員されるので、血清リン値はある程度一定に保たれるため初療の血清リン値が体内の著しいリン欠乏を反映していない可能性がある。

【Mg マグネシウム】
細胞内に豊富に存在する。細胞内の酵素反応、特に炭水化物の代謝反応の触媒として利用される。酸化的リン酸化反応など生体の多くの酵素反応の補助因子として重要で、DNA、RNA、リボゾームなどの構成要素である。低Mgは神経の過興奮、末梢血管拡張、不整脈の原因になる。

【チアミン ビタミンB1】
Wernicke脳症や乳酸アシドーシス、脚気などを想起するのではないでしょうか?
アルコール依存と関連して思い出されるのはアルコールが消化管でのチアミン吸収と肝臓でのチアミン貯蔵を阻害すること+アルコール依存患者と往々にして栄養不足であること+アルコール代謝にチアミンが利用されることに起因しますね。炭水化物、アミノ酸の代謝に利用される補酵素です。

【図1: RFSのメカニズム 】
慢性栄養失調から糖、タンパク、脂肪は減少し、上記のミネラル、チアミンは枯渇してしまいます。
そこで再栄養(refeeding)されると糖負荷によりインスリンレベルの上昇が起こり、様々な代謝(特に脂肪、タンパク)が起きます。前述の通りエネルギー、様々な代謝にはリン、チアミンが大量に利用され、カリウム、マグネシウムもチャネル駆動で細胞内シフトします。細胞質量減少、脱水状態では分母が低下しているので血清濃度レベルも見た目上は正常かそれに近い値を示す可能性もあり、低ミネラル、ビタミン欠乏をマスクする可能性がありますので注意が必要です。もともとの枯渇、代謝による利用、細胞内シフト、体液/細胞質量の増大(分母)から血清電解質/ビタミンの減少は突然、深刻に進行し、致命的となる可能性があります

RFSのリスクがある患者のための栄養管理

初期カロリー栄養の増やし方その他の推奨
NICE・最大10 kcal/kg/d
・超リスク (BMI<14, 15日以上飢餓状態など): 5 kcal/kg/d
4-7日以上かけゆっくり循環量を回復
IrSPEN超リスク: 5 kcal/kg/d
高リスク: 10 kcal/kg/d
中リスク: 20 kcal/kg/d
リスクカテゴリーに応じてゆっくり電解質の値を確認
不足している電解質を補充
CNSG超リスク: 5 kcal/kg/d
高リスク: 最大10 kcal/kg/d
中リスク: 最初2日間は必要量の半分以下にする
・高-超リスク: 臨床的、生化学的モニタリングが可能なら4-7日以上かけてゆっくり
・中リスク: 臨床状態と電解質の結果が許す限り増量
・エネルギーと水分はゆっくり導入
・K、Mg、Pの値をチェック
・電解質値が低下ても栄養は継続
・血清K、Mg、Pが著しく低い場合は補正するまでそれ以上増量しない
Cray重症: 約10 kcal/kg/d
その他15-20 kcal/kg/d
2-3日ごとに200-300 kcalずつ、慎重に段階的に増量・calと水分のあらゆる供給源を計算に入れる(デキストロース含む)
・栄養開始前に電解質(特にP、K、Mg)を確認し、すぐに補充
・血行動態が不安定でない限り、心筋症の要素のある神経性食欲不振症などの栄養失調患者では、最初はNa含有点滴を1 L/dまでに抑える
FriedliRFSリスクの重症度に応じて5-25 kcal/kg/dRFSリスクに応じて、目標calを減らし、5-10日かけて目標までゆっくり増量
・最初7日以内は水とNaの制限
RFSリスクが高い患者は、電解質の値が正常下限付近でも補正をする
・電解質の予防的補給

BMI, body mass index; CNSG, clinical nutrition steering group; IrSPEN, Irish Society for Clinical Nutrition and Metabolism; IV, intravenous; NICE, National Institute for Health and Care Excellence; RS, refeeding syndrome. ★references 4; ASPEN Consensus Recommendations for Refeeding Syndrome よりブログ著者翻訳

様々なガイドラインで論じられているが5日間以上ほとんど何も食べていなかった患者に対しては、まず半量の栄養投与から始め、密にP、K、Mgモニタリングしながら徐々に増量するよう推奨されている。またハイリスクな患者(BMI<14あるいは2週間以上の飢餓状態)に対しては、最大でも 5kcal/kg/dayの栄養投与で開始し、循環モニタリングも密に行う。臨床症状が乏しいからかやはり、現場では思いのほか侮られている気がする。特にチアミンに関してはリアルタイムで即日結果が返ってくる施設は多くないのが現状であり、疑えば投与をしっかり行う必要があると考える。

【雑談】1951年、戦争と日本人とrefeeding症候群と・・・

日本人捕虜における栄養失調患者の臨床研究

Refeeding症候群の初期の研究に、27人(3人は死亡しそこには新規患者が交代で観察対象となった。1人は観察期間終了間近に逝去)の脚気患者と24人の健常人の観察、比較した研究がある。
75年も前なのだと感慨深く論文を読みながらそれが日本人を対象になされていることに驚いた。

1945年の春、日本軍がフィリピン諸島で敗北したことにより、日本軍は退却。日本兵らはルソン島で食料調達のために小グループに分かれて盗みを繰り返すことになった。同4-6月、日本人の飢えが深刻化し、草や木の葉、ジャガイモの皮などを主食にしなければならなかった。
この間、何千人もの日本人がマラリア、赤痢、水腫などを発症し、多くの人が亡くなったらしい。
同9月2日の日本戦没者追悼式の後、日本兵は数千人単位で投降し始め、10月初旬までに約8万人がニュービリビッド刑務所に収容。これに伴い、ニュービリビッド刑務所のステーションホスピタルは5700人の捕虜のケアに追われることになったが、その多くは病気でベッドから動けない状態だったという。
捕虜となった日本人医師、看護師、病室担当者を集め、アメリカ人医務官の監督の下、患者ケア組織が設立されたと。
❝深刻な飢餓が様々な段階や症状で現れるという非常に珍しい光景がそこにはあり、これらの人々の哀れな身体的状態は、すぐに特定の観察と治療を行うための関心を呼び起こした。❞と記されている。

栄養における質の高い研究は残念ながらアジア、日本より圧倒的に欧米からのものが多い。日本版重症患者の栄養療法ガイドラインとか、まとまっていてとても勉強になるわけですが、そんなガイドラインもBMIが中央値が26とか28とかの大柄な患者対象の研究が多く参考にされているわけです、とても難しい。
そのガイドラインをどこまで踏襲して臨床に活かしていくのか、自験例やエキスパートオピニオンをどこまで取り入れていくか、はたまた日本で大きな研究を頑張っていくか・・・日々精進である。

日本のER、ICU、一般病棟では欧米に比べあきらかに痩せ型の患者さんが多い。
痩せ型の人は飢餓状態では貯蔵栄養やビタミン、電解質などの枯渇が早く起こる可能性があるのではなか?とか、ガイドラインが提示しているよりも栄養充足率高めでいいのでは?といった話5) や再栄養摂取の際はその効果が大きく現れてしまうのではないか?という話などがある。

そういう意味では「日本の医療現場においてRefeedng症候群に至るリスクは考える以上に高い可能性があるのでは・・・」と勘ぐってしまう。僕も救急外来からの緊急入院患者さんの集中治療にやってて再栄養時に電解質とか水分バランスの調整に注意を要することがよくあるし。しかも、Refeedng症候群の座学すればするほど、ICUの現場で出会う低リン、低カリウム患者さんが増えている気がするのだが気のせいでしょうか?(・_・;)
認知バイアスでしょうか・・・。

References

  1. Mehanna HM et al,. Refeeding syndrome: what it is, and how to prevent and treat it. BMJ. 2008;336(7659):1495-1498. doi:10.1136/bmj.a301
  2. Reber E et al,. Management of Refeeding Syndrome in Medical Inpatients. J Clin Med. 2019 Dec 13;8(12):2202. doi: 10.3390/jcm8122202.
  3. Hernández-Aranda JC et al,. Desnutrición y nutrición parenteral total: estudio de una cohorte para determinar la incidencia del síndrome de realimentación [Malnutrition and total parenteral nutrition: a cohort study to determine the incidence of refeeding syndrome]. Rev Gastroenterol Mex. 1997 Oct-Dec;62(4):260-5. Spanish. PMID: 9580233.
  4. da Silva JSV, Seres DS, Sabino K, et al. ASPEN Consensus Recommendations for Refeeding Syndrome [published correction appears in Nutr Clin Pract. 2020 Jun;35(3):584-585]. Nutr Clin Pract. 2020;35(2):178-195. doi:10.1002/ncp.10474
  5. 東別府 直紀, 讃井 將満, 祖父江 和哉, Daren K. Heyland, 本邦ICUでのエネルギー充足率と転帰への影響, 日本集中治療医学会雑誌, 2019, 26 巻, 1 号, p. 25-27, 公開日 2019/01/01, Online ISSN 1882-966X, Print ISSN 1340-7988 
  6. Guyton & Hall Textbook of Medical Physiology, 14th ed.

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