蘇生「そ・せ・い」のあと ~家族の心を置き去りにしない~

Tips

心停止の患者さんの乗った救急車にはもう一人、患者が乗ってくる。

「心停止の患者さんの乗った救急車にはもう一人、患者が乗ってくる。」大先輩のお言葉である。

搬入から25分。
「アドレナリン、6回目入りました」 「波形、asystoleのままです」 「エコー、心臓の動きはありません」モニターは平らな線を引き続けている。胸骨圧迫の軋む音だけが、規則正しく部屋に響く。
そこへ看護師が顔を出す。
「先生、ご家族が到着されました。」


ここからが、もうひとつの蘇生だ。家族とは初対面。信頼関係なんて、もちろんない。数時間前まで一緒に夕飯を食べていた人が、いま死に瀕している。家族はその現実に、何の準備もなく放り込まれている。
一方の僕には、教科書どおりに30分以上かけて悪い知らせを伝える時間がない。それでも数分後には、この話をしなければならない。「この蘇生を、いつまで続けるのか」前回の記事では、蘇生をいつ止めるか、そのヒントとなる話をした。TOR rule、初期波形、目撃の有無、経過時間。止めるための医学判断の話。今回は、どのように止めるか、そのヒントとなる話をしてみたいと思います。

ERで行う「緊急ACP」と「バッドニュースコミュニケーション」

最初に、はっきりさせておきたい。
この記事は「家族に蘇生中止を受け入れてもらうためのテクニック」ではないということ。そういう読み方をされると、いくつもの誤解を呼び起こしてしまう。テクニックというと表面的だけど大切なことは次の3つです。

  1. 家族が、いま何が起きているのかを理解できること
  2. 本人がどんな人で、何を大切にしていたかを、方針に持ち込むこと
  3. 家族に「自分が死なせた」という不必要な罪悪感を残さないこと

そのうえで、医学的にも倫理的にも妥当な医療を前へ進めるテクニックです。
誘導することは違います。
かく偉そうに言う僕も「うまくいった」っと思えることはほとんどない。。。思い起こせば、自分のせいで家族に罪悪感を植え付けてしまったことも数えきれないと思う。
罪悪感を「ゼロ」にすることは、たぶんできないし、大切な人を亡くした家族は、どれだけ丁寧に関わっても「あのとき、もっと早く気づいていれば」と自分を責める。僕らにできるのは、その上に余計な重さを積まないことかなと思うんです。
「心停止後、すぐに心臓マッサージ(胸骨圧迫)を始めないと1分すぎるごとに蘇生の確率が7%~低下して・・・・救急隊接触時まで9分かかりましたので、現在の蘇生の見込みは・・・」などという言葉は「心停止へあなたの対応が遅れたのでご家族は蘇生の見込みがありません。」と翻訳される。
これは医学的には正しいことかもしれないが家族に話すべきことだろうか?
そんなわけない。
いくら医療者としての正当性を伝えたい、無力感から少しでも逃げたいという欲求が出てきてもそれを患者や家族向けるのは良くないと思うのです。


2.4学会合同ガイドラインを「ER語」に翻訳

2026年9月、日本集中治療医学会、日本救急医学会、日本循環器学会、日本緩和医療学会の4学会から、新しいガイドラインが出ました。
「救急・集中治療における生命維持治療の終了/差し控えに関する4学会合同ガイドライン_「本編」

2014年の3学会提言の改訂版で、今回から日本緩和医療学会が加わり、本編、説明文、緩和ケア別編、Q&A集、全部合わせると100ページを超えます。ERに持ち込めるようにいくつかを翻訳みます。

まず、この文書の正体

これは診療ガイドラインではなく、臨床倫理のガイドラインです。エビデンスの強さで推奨度をつけた文書じゃなくて、専門家が修正デルファイ法で合意した「意思決定のやり方」の参考文書です。

日本には、生命維持治療の終了/差し控えを定めた法律がありません。だからこの文書は法律に準じて扱われるというか、規範として働くと思います。家族の前でも、法廷でも、自分の良心の前でも、僕らのある意味、よりどころとなり得る文書な気がします。是非一読を。

「救急・集中治療における生命維持治療の終了/差し控えに関する4学会合同ガイドライン_「説明文」

翻訳① 「いつ止めるか」でなく「どう決めていくか」。

今回のガイドラインは、「終末期」をあえて狭く定義していません。狭い定義の終末期にのみ適応されるガイドラインと位置づけられると、「この症例は終末期ではないから、ガイドラインを参考にできない」と意訳されてしまい、本人の意にそぐわない蘇生の継続がされてしまうからということです。
だから今回は、ある意味、終末期という枠そのものを捨てて、代わりに・・・

  • 多職種の医療・ケアチームによる臨床倫理的な検討
  • 患者・家族等との共同意思決定(Shared Decision Making:SDM)

を重要なものとして示しています。

翻訳② ERで集める判断材料は、大きく4つ。

ガイドラインのいう「臨床倫理的な検討」とは、次の4つを漏れなく話し合うことです。臨床倫理の世界ではJonsenの4分割とか臨床倫理4分割表として知られているらしいですがER的に置き換えると、こうなる。

4分割ERで確認すること
医学的側面目撃、初期波形、経過時間、可逆的原因、エコー:蘇生確率、目標達成できるか?
本人の意向事前指示、過去の発言 ➡ 現状から推測される結果(予後)からその治療を望むか?
QOL普段どんな暮らしをしていたか。治療後どうなると予想されるか?
周囲の状況家族意思、現実社会的要因(経済、介護、利害)、医療スタッフの理解/意見

ガイドラインは、かかりつけ医や在宅医療・ケアの担当者にも話し合いに入ってもらうよう求めているし、夜中の3時でも、施設に電話を1本かければ、「普段の〇〇さん」が見えてくることは多い。が、ERではそこまで丁寧に時間をかける状況、マンパワーが存在しないというのが現状かと思う。(夜中3時に訪問看護師さん経由で主治医に連絡を取ってもらい対応できたという経験もある)

翻訳③ 本人の意向の確認。

本編は、本人の意思を確かめるための4段の階段を示している。

  1. 本人が意思を示せる:本人の意思を尊重する。
  2. 意思を推定できる:ACPや過去の言葉から推定する。好きな事、大事にしていることは何か。ACPが今の状況を想定していなくても、そこに表れた価値観は根拠になる。
  3. 推定できない:家族等と「本人にとって何が最善か」を話し合う。
  4. 家族等と連絡がつかない、身寄りがない:チームで判断する。ただし「年齢や外見等の偏見を排除」する必要がある。

CPAで運ばれてくる人は、3か4の段目から始まることも多い。4段目で一番入り込みやすいのが、「高齢の独居だから」という偏見。ガイドラインがわざわざ偏見の排除を書いているのは、たぶんそのためだと僕は読んでいる。でもこの偏見が以外にもその実を表していることも多々あるのが難しいところだと思ったりもしている。

またDNARの書類が手元にあっても、そこで思考を止めないことが重要だという。緩和ケア別編は、結論だけでなく、誰と、どんな状況で、どんな話を経てそう決めたのかまで見るよう求めている。これもまた蘇生が始まっている現在心停止最中にはプロセス確認は最小限にしてその事前指示の確からしさと矛盾がないことを確認するのみにとどめなくては、きりがないときも多く、僕自身も理想と現実のバランスを加味して最低及第点とるために日々、頭を悩ませている。

それから、「家族等」は戸籍上の家族とは限らない(Q&A5)。事実上のパートナーや、親しい友人も入る。ERでは、救急車に一緒に乗ってきた友人が、本人を一番よく知っていることさえある。あとから、家族と名乗るよく分からない人が出てきたと思いきや、その人が一番近い親族ということもあり得るため、そういった家族に対する偏見の排除も重要であろう。

翻訳④ 家族は「決める人」ではなく「本人を語る人」

意思決定で尊重されるのは、患者と家族のどちらか。Q&A-6の答えは、開口こう言い切っています。

患者です。

家族の事情と本人の最善は、ずれることがある。介護や経済的な負担から、治療を控えてほしいと考えることもある。逆に、年金などの事情から、治療の継続を強く望むこともある(Q&A6・18)。
家族を責めているのではないのですが。人間とは 「そういうもの 」。だからこそ、家族に決めさせないという視点も重要。Q&A-29には「家族等に強い決断力を求めるものではなく、意思決定の負担を一人で背負わせないことを重視しています。」っと書かれており、この一文が患者家族を守るにも医療者を守るにも大切な背骨になりそうです。

翻訳⑤ 終了と差し控えは、倫理的に同じ。だからERでは迷わず始める!

ER医にとって一番大事な翻訳は、たぶんここだ。

  • 差し控えと終了は、倫理的に同等である(Q&A33)
  • 一度始めた生命維持治療は、やめられる(Q&A34)
  • 期限付きの治療の試行(Time-Limited Trial:TLT)をわざわざ明記したのは、「やめられないから、始めない」を避けるため(説明文)

説明文は、旧ガイドラインの時代に生まれたこの心の壁が、救命できるかもしれない患者への初期治療をためらわせることを危惧している。ERでの心停止に関してTLTが可能であるとすれば最初の30-50分ほどの蘇生への反応確認のところである。そこは迷うべきでないし、ある程度継続して問題ないとも言える。

「挿管したら抜管できないですよ。辛いことは控えましょう。」「人工呼吸器管理したけど、結果、本人の望む治療とは違う。抜管したらすぐお亡くなりになるほど重症な場合は抜管できません。でも、抜管して少しの間、自身で呼吸され状態を保てる状態なので抜管し、再度悪くなった時は再挿管はせずに自然に任せましょうという99%抜管不成功と予想している医療者と家族、抜管」「点滴しなくなったらすぐにお亡くなりになるので本人の意思とは異なりますが500ml/日だけ点滴しましょうという。不十分を認識しているが、やっている感を出したい、時間稼ぎ」
このグレーなやり取りはたくさんしてきたし、見てきた。医療者や家族の納得や受け入れのためにプロセスや時間が必要なことはあるし、それが本人の「家族の気持ちを大事にしたい」という推定意思だと言われればまあ、そうであるが・・・ジレンマは置いておくとして
ERでは迷ったら挿管していい。ROSCしたら、ICUでもう一度考えればいい。っということである。

ただし、TLTは「家族が納得するまで蘇生を延ばす」ための道具ではないこと。結論へ誘導する枠組みでもないこと(Q&A36)。治療期間が延びることで「死のプロセスの質」を損なうデメリットも、本編ははっきり書いている反面、不確実性の高い状況において時間的猶予を確保し、より慎重で納得性の高い意思決定を支えるための手法として位置づけています。

翻訳⑥ 説明文は、使わないようにする言葉をわざわざ書いてくれている。

使わない言葉理由
終末期一律に定義できない
延命治療・延命措置どこからが「延命」か、線が引けない
中止再開もあり得ると誤解される。「終了」に統一
治療の終了症状緩和は続く。「生命維持治療の終了」と言う
消極的安楽死安楽死と混同される
BSC「もう治療しない」「見放した」と受け取られやすい

「無益性」や「医療資源の効率」を判断の根拠にする枠組みを採らない、とも書いている。僕はこれを、家族にかける言葉にも持ち込みたいと思いました。
蘇生中止を「梯子を外す、治療をしない」とか「あきらめる」という表現ではなく「辛い処置は終了する」「心臓を戻すための処置は終え、最期に穏やかな時間を作れるようにサポートします。自然な形で時間を過ごしましょう」とかホント気休めでしかないかもしれないが、医療者として患者、家族に最期にできることは何かと考えるとそんなことくらいなのかもしれないし、それでも大切なことだとも思う。

翻訳⑦ 家族ケアは、家族が受付に着いた瞬間から始まっている

緩和ケアは、生命維持治療を終了してから始めるものではもちろんない。救急搬送の時点から、治療と並行して始める(Q&A57・58)。本編が引用するWHOの定義では、緩和ケアの対象は患者だけではない。家族のQOLも含まれる。そして緩和ケア別編は、こう警告している。

救急外来やICUでの死別は、家族の悲嘆を長引かせるリスクが高い

っと。個々に関しては医学のアウトカムは蘇生率のその先にも存在することを肝に銘じたい。


3.ERで家族と向き合う時間

蘇生中に患者の現状が整理できれば、家族説明に要する時間は5〜6分で足りると思う。
急性のストレスのただ中にいる人が受け取れるのは、せいぜい数文です。説明を長くしても、頭に入る量は増えない。
でも、家族と向き合う時間をすべて5〜6分で終わらせるのは、短すぎる。っと思いますよね。だから僕は、1回のICではなく、3回の面談として考えています。

面談時間中身
① 到着直後     1〜2分現状の理解確認「救急隊よりどう聞いていますか?」➡「とても厳しい状態です」と予告。看護師が担ってもいいと思う。
② 方針の対話5〜10分本人の価値観を聴き、医師として推奨を伝える
③ 死亡確認の後15〜30分以上質問に答える。触れてもらう。手続きを説明する。帰宅まで。

②に入る前に、蘇生のリーダーは別の医師に渡しておく。延びることを前提にしておけば、10分かかっても焦らない。そして③は医者としては時間に追われないがしろになりがちですが、医療チームで連携して行う。特に重要。


4.RELEASE ― 蘇生を止めるときの7ステップ(実践)

ここからが実践編。

悪い知らせの伝え方には、SPIKESという有名な手順があるが。胸骨圧迫が続いているあわただしいERでも実践できるようにERの時間軸に合わせて、修正した。僕はこれを RELEASE と呼んでいる。

Ready → Engage(Emotion) → Lead-in → Explain → Ask about the person → State → Escort(Emotion)

家族を、決断の必要以上の重さから RELEASE(解放) することを目標します。このRELEASEにはEが2つ存在する。Rのあと患者・家族に相対するE~最後のEまでには()カッコつきでEmotionを配置している。患者・家族に接触してからこちらには様々な感情が向けられるそれに対して沈黙、共感、適切なタッチや傾聴などにより支援的であるべきということが込められています。

【図:RELEASEフローチャート】

ここからは、さっきの症例の続きで見ていく。

70歳の急本救太郎さん。自宅で倒れているところを妻が見つけた。目撃なし。救急隊接触時、asystole。病院到着後もROSCはない。可逆的原因を探し、治療したが、反応はない。

妻と長男が到着した。

R:Ready ― チームで30秒話し合う。

短い時間でも良い。

  • ここまでの経過
  • 可逆的原因は探しきったか
  • 医学的な見通し
  • 本人の意思について、分かっていること

この4つを、医師と看護師で共有し、医師を中心に医学的判断と周囲情報をまとめる。そして役割を決め(家族に説明する医師、家族につく看護師など)、説明役が蘇生リーダーなら、リーダーは別の医師に変わってもらう。中断の指標は別記事で。


皆さん、良かれと思い、自施設で行う時はー突然「蘇生中止を考慮しています。意見のある方いらっしゃいますか?いいですかね?」などと急に始めないように。この枠組みと使う時は普段から意図をシェアしておかないと「リーダーが、医師が判断することでしょ?」っと変な空気になると思う。個人的にはそれが今の職種別の現場でのデフォルト-プロフェッショナリズムだと思う。

E:Engage ― 座って、名乗って、まず聞く

説明室に入る前に、自分の身なりを見る。ガウンに血がついていないか。手袋をしたままではないか。PHSは同僚に預ける。説明の最中に鳴るPHSほど、家族を「後回しにされた」気持ちにさせるものはない(電話に出て「今重要な話をしてる」っと切るのも悪くはないが)。

部屋に入ったら、立ったまま話さない。座って、目線を同じ高さにする。緩和ケア別編には、とても具体的に書いてくれているので是非読んでほしい。
「救急・集中治療における生命維持治療の終了/差し控えに関する4学会合同ガイドライン_「緩和ケア別編」
静かな部屋、挨拶、自己紹介、同席者の確認。説明する医療者が家族の正面に座るなら、看護師は両者の中間、90度の位置に座る。目を見る。相槌を打つ。沈黙を待つ。

名乗ったら、すぐに説明を始めないで、まず聞く。

「救急を担当している まにまに です。救急隊からは、どのように聞いておられますか?」
「大事なお話になります。他に一緒に話を聞いた方が良い方はいらっしゃいますか?」

家族の頭の中が「ちょっと具合が悪いらしい」なのか、「心臓が止まったらしい」なのか。それによって、次の一言がまるで違うの相手の理解を確認する。またkeyとなる人がすぐに話せる状態なら一緒に話す必要がある。

L:Lead-in ― 悪い知らせが来ることを予告する

いきなり本題に入らない。一拍置く。
「いまから、厳しいお話をしなければなりません」医療者の間ではwarning shotと呼ばれる一言。

これがあるだけで、家族は心の中で身構えることができる。ほんの数秒待つこともある。
また、家族によっては明らかに大ごとであると既に認識している人もいるため、急いて「そんなこといいから、状態はどうなんだ。助かるのか?!」っと前のめりになっている人もいる。無理もない、敗血症、呼吸不全、脳卒中のように何とかそのまま搬送されることが出来た人の家族でさえ狼狽するのに、現場ー救急車内でダイナミックな処置をしながら搬送された人の家族のストレスたるやも想像を絶するものだろう。

E:Explain ― 短い文で伝え、沈黙を待つ

事実は、短い文で。3文まで。

「急本さんは、心臓が止まった状態で運ばれてきました」 「救急隊と私たちで、心臓マッサージと薬を続けています」 「でも、心臓は一度も戻っていません」

そして、黙る。ここが一番難しい。僕にとっては特に難しいことだった。
医師にとってこの5秒の沈黙は、永遠のように長い。つい何か言いたくなる。
でも、家族にはその5秒が必要だということは理解しておきたい。
緩和ケア別編には、こうある。家族から心情を伝えられたときは、「わかります」などと即答せず、しばらく沈黙の時間をおくようにと。確かにそうだなと思った。
数十分前に夫が倒れた妻の気持ちは、たぶん僕には分からない。分からないものを「分かります」と言うと、言葉が急に軽くなる。
だから、家族が先に沈黙を破ってくれたのなら、これくらいの言葉が良いと思う。

「頭の中が真っ白ですよね」「……突然のことで、言葉が出ませんよね」

A:Ask about the person ― 「その人」を聴く、シェアする

ここが、ERで行う緊急ACPの入り口になる。「急本さんは、普段どんな方でしたか?」ある程度余裕のある時間単位の緊急ACPならとても重要な質問になる。しかし、心停止患者の例で考えて、こう聞いてゆっくりと「夫は・・・」「父は・・・」と話し始めることが出来ないだろう。

僕がいちばん大事にしている質問は、これ。
「旦那さんはこういうときのことを、何か話されていたことはありますか?」「お父さんが現在の状態をみてご意見できるとしたときにどうしてほしいというと思いますか?」
ここで聞いているのは、家族の希望ではなく、本人の推定意思。家族等から患者の人となりを聞くことは、患者の価値観を引き出すことができると同時に、家族等の心のケアにもつながります。

この質問は、情報収集であり、ケアでもある。
家族が家族のことを話してくれるたび、ストレッチャーの上の「心肺停止、70歳男性」が、「毎朝6時に犬を散歩させていた、照れ屋の急本さん」「家族に心配させまいとする優しい父」「家族の言うこと聞かない頑固な父」に戻っていくのが不思議な感覚である。

S:State ― 推奨を伝え、決断の重さを引き受ける

患者意思が決まっているか、推定できるか、そうでないかは、さまざまであるが最終的には家族から、このようなニュアンスの問いが返ってくると思う。
「先生、どうしたらいいんでしょうか・・・」
ここでの悪手は「ご家族で決めてください」である。共同意思決定は、決断の丸投げではなく、Shared Decision Making。
医療者は、医学的な判断から逃げない。推奨をはっきり示す。

「ここまで十分な蘇生を行いましたが、心臓は戻っていません。」
「治療できる原因も探しましたが、見つかりませんでした。」
「これ以上続けても、急本さんが元の生活に戻れる可能性は、極めて低いと考えています。」

一拍置く。。。。「私たちは、これ以上体に負担の大きい蘇生を続けることは、急本さんのためにならないと考えています」

つぎに家族に、こう聞く。「では、蘇生を止めてもいいですか?」これも悪手かもしれない。丁寧に聞こえる。でもこの一言は、家族の記憶の中で、何年もかけてこう書き換わる。
「私が『止めてください』と言ったから、父は死んだ」

だから、僕は
「医学的な判断としては、お辛いとは思いますがお別れしないといけません。・・・。」
「医学的な判断は、私たちが引き受けます。そのうえで、この方針が山本さんらしさと食い違っていないか、一緒に確かめさせてください。」

っと聞くことが多い。

家族に確かめるのは、止めるかどうかではない。本人らしさとのずれです。これはガイドラインにある定型句ではないので皆様の人となりが出るところであると思う。諸先輩方のムンテラに同席して学ぶが良いと思う。
ガイドラインの「家族に強い決断力を求めない」「決断の負担を一人で背負わせない」(Q&A29)という原則を、ERの言葉に落とすなら僕はこう言う、という提案です。

そして忘れてはいけないのは、ガイドラインが生命維持治療の終了を促す文書ではないことだ。
継続も、終了も、差し控えも、同じ重さの選択肢として扱っている。だからこの会話も、中止へ誘導するためのものであってはいけない。
いや「促しているだろ。」「誘導してるやないかい!」声は少数であるだろう。あくまで医学的に避けられないであろう結果(予測)に対してどういう道を通ってそこにたどり着くかというプロセスの話であると思っている。

「まだ続けてください」と言われたら

ERでは、普通にある。ここで僕はの頭の中でスイッチが変わり、説得モードに入る(✖)。。。起きがちな、頭でっかちの僕である。結果、説得に見えるのだが、論じて説き伏せるのではなく、家族がたどり着くように話さなければいけないかなと考える。

「そう思われますよね」

そして、聞く。

「いま、何が一番気がかりですか?」

「まだ生きているのに、見捨てるみたいで」なのか。「遠方の娘が、まだ着いていない」なのか。「父は絶対に諦めない人だった」なのか。蘇生を望む理由によって、次にすべきことはまるで違う。

蘇生中止反対意見の奥にある理由を、診断する。熱があるからといって抗菌薬を入れるのではなく、熱源を探すのと同じ。

もうひとつ、現場で働く身として正直に書いておく。現場では、「遠方の家族が間に合うように、数十分、いや数時間、蘇生を続ける」ことが実際にある(方便、本音や建前に関しては現場の偉い先生にどういうことか確認してほしい)。これはガイドラインには書かれていない。

僕なら、続けるとしたら、その目的をチーム全員で言葉にする。「これは、娘さんが間に合うための時間です」と。そして、時間を区切る。目的のわからない蘇生は、誰のためにもならないので。
蘇生の場に立ち会うかどうかも、ここで尋ねる。蘇生中に家族の立ち会いを提案した群では、90日後のPTSD関連症状が少なかったというランダム化比較試験がある(Jabreら, NEJM 2013)。もちろん強制はしない。立ち会わない選択も、尊重する。

E:Escort ― 蘇生から看取りへ付き添う

  • アラームを止める。モニター音は、思った以上に記憶に残る(家族が入る段階で止めることも)
  • 血液や体液を拭き、乱れた服を整える。それから家族を迎える。
  • 「触れて大丈夫ですよ」「声をかけてあげてください」と伝える。
  • 家族だけにする時間と、そばにいる時間を、両方つくる方針が決まった。

ここで、言葉を選ぶ。
「心臓を戻すための処置は、ここで終えます」
そして続ける。「処置を終えて穏やかな時間を今から作ります」

そして死亡を確認したら、婉曲な言い方をせず、
「午後9時42分、お亡くなりになりました。最期まで頑張られました。」
「お気持ちに、力及ばずで、申し訳ありません。」

米国救急医学会(ACEP)が教材を公開している死亡告知の手順GRIEV_INGも、「亡くなった」とはっきり伝えることを求めている。

緩和ケア別編は、家族と患者が過ごす時間を確保しつつ、家族が孤独を感じないように、医療者も適宜同席すると書かれている。ERでこのような場面に慣れている僕らと違って患者家族にとっては驚くほどストレスな状態でしょう。患者の外観を整え、音やにおい、体液による汚れにも気を配ることは重要だと思う。

ERだからこそ、先に伝えておくこと

死亡診断後は、家族が悲しみや驚きなどの嵐に対している一方で、家族にはある種、現実味を帯びた疑問も出てくるころである。
「これから、どうなるのか?どうしたらいいのか?」
一般の方にとって人生に1,2回の事かもしれないので無理もない。死因のわからない来院時心肺停止では、警察に届け出て、検案を受けることが多い。警察の確認が入る場合、まれに挿管チューブや点滴を抜かずに残すことがあること。そういったことを話しておかないと「どうして管が刺さったままなの」 「疑われているの?」と不安になる。
「病院の外で亡くなられた方の場合、申し訳ないのですが決まった手続きとして警察の確認が入ります。何かを疑っているわけではありません。」と話しておく。

内因で診断がついている場合は、「ここで診断書を発行してお身体をきれいにさせていただき、お家に帰ります。」「葬儀社さんへの連絡となります。」など様々なケース別の説明をこちらからタイミングを見て説明して差し上げることになる。

帰る前に、そして帰った後に

質問があれば答える。後悔の言葉が出たら、遮らずに聴く。

「私がもっと早く気づいていれば……」

ここで「そんなことないですよ」と即座に打ち消したくなるけど、その前に聴く。緩和ケア別編は、家族が自分を責めるような言葉を口にしたら、「患者の意思や最善を考慮したうえでの方針決定であったこと」を、家族とともに確認するよう求めている。

グリーフケアの資料と、連絡先を渡す。施設の体制が許すなら、1〜2週間後に電話で様子を聞くことも、別編は勧めている。グリーフケアは、死亡宣告から始まるのではない。意思決定の前から始まり、死別の後まで続くとのことらしい。


5.カルテには「DNAR、家族了承」とだけ書かない

最後に、地味だけど大事な話を。

家族へ説明。DNAR了承。

これだけでは、今回のガイドラインが一番大事にしているものが消えてしまう。プロセス。本編は、カルテに残すべき項目を挙げている。ERに合わせて削ると、最低限こうなる。

  • 説明した相手と、同席した医療者
  • 説明した内容と、家族の理解・受け止め
  • 本人の意思、またはACP。それが示された状況
  • 家族が推定した本人の意思と、その根拠
  • 家族自身の意向
  • 蘇生終了を考えた医学的根拠
  • 検討に加わったメンバー

残すべきは結論だけでは不十分で「どうやってそこにたどり着いたか」も重要であると、僕も勉強になった。それが家族、患者の尊厳そして僕ら自身をも守んだと思う。


6.僕ら自身のことも、少しだけ

緩和ケア別編の最後の章は、医療者へのケアに割かれている。モラルディストレス。共感疲労。二次的外傷性ストレス。バーンアウト。蘇生を止める判断を、毎週のように下す。初対面の家族に、毎週のように死を告げる。それで何も感じなくなったなら、それはそれで危うい。

ひどいケースの後は、5分でいいから、チームで振り返る。「あれでよかったのか」を口に出す。

次の患者と、次の家族のために。


おわりに

「先生、私がやめてって言ったから、死んだんですよね」この言葉を、できるだけ家族に言わせたくない。救急医は、救命のために全力を尽くす。それでも、すべて思い通りににはいかない。むしろ上手くいかない方が多い。蘇生の終了が避けられないとき、僕らにはもうひとつ仕事が残っている。

いま何が起きているか、本当にその道しかないのかを自分たちで、言語化し、分かる言葉で伝える。
本人がどんな人だったかを、聴く。 医学的な判断から、逃げない。生死の重さを、家族だけに背負わせない。そして蘇生が終わっても、その場から急に消えない。

4学会合同ガイドラインは、生命維持治療の終了を、命を縮める行為としては描いていない。本人の価値観と、医学的・倫理的な妥当性にもとづいて、治療とケアのゴールを見直すプロセスとしてイメージしている。

どんな医療も命を救うことも含め、その人と家族の人となりや、人生の在り方やを教えてもらってサポートするということが目標なんだろうと思った。

残された人が、その死を抱えて、明日からも生きていくための最初の時間としてとても重要なとことに関わっていると感傷的になって筆が多くなってしまいました。すみません。


参考にした枠組み

RELEASEは、以下の既存の枠組みを土台に、4学会合同ガイドラインの考え方に沿って、ERの数分間用に組み直した筆者の実践提案です。ガイドラインに定められた手順ではありません。「Ask about the person」と、家族を決断の重さから解放する「State & release」が、筆者が独自に加えた部分です。

  • SPIKES:悪い知らせを伝えるための6段階の手順。がん告知のために作られた(Baile WFら, Oncologist 2000)
  • GRIEV_ING:救急外来での死亡告知のための手順。研修医向け教育の前後比較で、告知の自信と技能の向上が示されている(Hobgood Cら, Acad Emerg Med 2005;12:296-301)
  • CEASE:蘇生をいつ、どう止めるかの手順。最後の「E」が家族への説明にあたる(Torke AMら, Ann Am Thorac Soc 2015)
  • NURSE:感情に応えるための技法。緩和ケア別編でも紹介されている

参考文献

  1. 日本集中治療医学会, 日本救急医学会, 日本循環器学会, 日本緩和医療学会. 救急・集中治療における生命維持治療の終了/差し控えに関する4学会合同ガイドライン(本編・説明文・緩和ケア別編・Q&A集). 2026年9月.
  2. Jabre P, et al. Family presence during cardiopulmonary resuscitation. N Engl J Med 2013;368:1008-18.
  3. Baile WF, et al. SPIKES—A six-step protocol for delivering bad news: application to the patient with cancer. Oncologist 2000;5:302-11.
  4. Hobgood C, et al. The educational intervention “GRIEV_ING” improves the death notification skills of residents. Acad Emerg Med 2005;12:296-301.
  5. Torke AM, et al. CEASE: a guide for clinicians on how to stop resuscitation efforts. Ann Am Thorac Soc 2015.

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