救急外来やICUで使用するのは短期間が多いってことも、中長期になれば専門科をからめて治療する方が良いってこともわかりました!でも短期使用での注意点というか、患者にデメリットはないんでしょうか?
良い質問だね~。免疫調整/抑制って意味での効果は一定量(20mgとか)を数週間投与して発揮されるって感じなのであまり心配はないのだけど、急性期投与で考えないといけない副作用はあるんだよね。
ですよね。。。ややこしそう。
ま、そんな難しく考えず。ポイントを解説するぞ。
救急医療で副作用として知っておくべきこと
これに関しては投与量と期間によりリスクは異なるため、そこを整理しつつまとめてみる。
まず、量に関してはプレドニン換算で少量:~10mg、中等量:~0.5mg/kg、高用量:1mg/kg、パルスといったように分けることが一般的。前の記事でも記載したがゲノム的に効かせる場合、最大でも1mg/kgと言われているので、それが高用量、その半分が中等量だと覚えればよい。
短期投与の副作用(頓用~2週間くらい)
僕が救急外来やICUで短期投与として思い浮かんだもの挙げると気管支喘息発作、COPD急性増悪、敗血症含めた相対的副腎不全、細菌性髄膜炎、ニューモシスチス肺炎、喉頭浮腫改善/予防(気管挿管→抜管時)、痛風/偽痛風発作(NSAIDsが使用しにくい場合)などかなと思う。
救急医が処方するときは基本こちらの短期投与に対しての副作用を気を付けることとなる。使用量に関しては高用量単回投与か0.5mg/kg~1mg/kg程度を数日~1週間ではないだろうか。
パルスなどの高用量以上の場合は骨壊死などのリスクは上がるため別枠として、具体的には高血糖、高血圧、Na貯留、消化管潰瘍、眼圧上昇、不眠、食欲亢進は意識したい。
しかし、0.5mg/kg程度(30-40mg)の抗炎症のみを期待した救急外来、ICU短期集中の治療では高血糖、高血圧、Na貯留はしっかり早期に現れている気がするが短期間で終了するので大きな問題は起きにくい。不眠、食欲亢進、血糖上昇、血圧上昇は当日~数日で問題になることがあり、高齢者、心不全、糖尿病患者には注意が必要である。また消化管潰瘍、胃粘膜障害なども考慮である(高齢、アルコール常飲、喫煙者などリスク)。
以上より、具体的な対応としては
問診:結核の既往/リスク評価、B型肝炎の既往/リスク(HBs抗原計測)評価
NSIADs内服歴あれば可能なら中止、PPI投与検討、ロキソプロフェン→セレコキシブに変更を検討)
不眠、食欲亢進の説明が重要である。
中長期投与の副作用(2週間くらい~)
同様に疾患としては亜急性甲状腺炎、菊池病、Bell麻痺くらいなら救急外来でもステロイド治療開始を検討するかもしれない。鑑別が重要(他甲状腺疾患/喉頭の炎症、悪性リンパ腫/伝染性単核球症/ネコひっかき病、脳梗塞、など)であり、慣れないものが使用するのは良くないためfollowしてくれる専門科と協議しているとよいだろう。
救急医が気を付けるべき中長期投与の副作用となると、「そもそも中長期ステロイド内服している患者うを診察する時、その患者にはどんなリスクがあるのか?」という視点が重要となる。
先述の短期投与で挙げた副作用に追加して耐糖能異常、脂質異常、結核/B型肝炎の再燃、緑内障、日和見感染(ニューモシスチス肺炎など)、ミオパチー、骨壊死は知っておく。また、視床下部-下垂体-副腎系抑制は7.5mg/日以上、3週間以上投与で出てくるとの目安があるので特に内服できていない場合には副腎不全には注意である。(Stewart PM, et al : The adrenal cortex. Melmed S, et al, eds. Williams Textbook of Endocrinology 12th ed, Saunders, 2011, 479-544)
救急外来でより重要な副作用に関して閾値の目安を記載しておく。
・ニューモシスチス肺炎(PCP):20mg/日以上、1カ月以上の投与→予防すべき:実臨床ではST合剤(バクタ®)1錠連日投与がよく見られるが副作用の観点からバクタ®1-2錠を隔日で週に3回投与がよさそう。(Am J Respir Crit Care Med. 2011 Jan 1;183(1):96-128.)
・骨粗鬆症:65歳以上(量に依存なし)、プレドニゾロン換算7.5mg/日以上を3カ月以上投与する場合に【例】アレンドロン(フォサマック®、ボナロン®)35mg週1起床時、リセドロン(アクトネル®、ベネット®)17.5mg週1起床時
(J Bone Miner Metab 32, 337–350 (2014). https://doi.org/10.1007/s00774-014-0586-6)
・結核:ステロイド内服あれば基本疑う。特に15mg/日以上、1カ月以上投与されていれば高リスク。ERで診療時には画像検査して検索を考慮。投与前はT-SPOTなどで検索を。
・非日和見感染症、細菌性肺炎などもプレドニゾロン換算20mg/日を超えてくると感染頻度が2倍になるとの報告もある。少量でも長期続けると時間軸と共にリスクが上がっていくため、積算量で感染頻度が増加するイメージでとらえても良いと考えている。(Annals of the rheumatic diseases vol. 71,7 (2012): 1128-33.)(Reviews of infectious diseases vol. 11,6 (1989): 954-63. doi:10.1093/clinids/11.6.954)
ステロイドのTips
ここでは番外編として臨床で知っておくとよいステロイドに対する注意点、Tipsを紹介する。
よく使う注射製剤まとめ
【メチルプレドニゾロン:コハク酸エステル】
●ソル・メドロール:後述のとおり40mg製剤は牛乳アレルギーの患者への使用は控えたい。
【ヒドロコルチゾン】
リン酸エステル ●ハイドロコートン ●ヒドロコルチゾンリン酸エステルNa
コハク酸エステル ●ソル・コーテフ ●ヒドロコルチゾンコハク酸エステルNa
【プレドニゾロン:コハク酸エステル】
●水溶性プレドニン
【デキサメタゾン】
リン酸エステル ●オルガドロン ●デカドロン ●デキサート
パルミチン酸エステル ●リメタゾン
【ベタメタゾン:リン酸エステル】
●リンデロン ●リノロサール
え、そうなんですか?TIPS
注射用ソル・メルコート®40mg、ソル・メドロール®静注用40mg
注射用ソル・メルコート®のうち、40mgの製剤のみ添加物として乳糖水和物が含まれている。
他の規格(125mg、500mg、1000mgの製剤には添加されていない。ソル・メドロール®静注用も同様に40mgのみ、乳糖水和物が含まれる。
セレスタミン®配合錠
蕁麻疹、湿疹、アレルギー性鼻炎(花粉症)などで処方されるセレスタミン®配合錠。普通に「〇〇ミン」ってかわいい名前なもんだから抗ヒスタミン薬だと思ってしまうのは私だけだろうか。意外と知らない人が多いと思うのだが、これは抗ヒスタミン薬+ステロイドの合剤である。べタメタゾン 0.25mgが入っている。計算上プレドニン換算で1.66mg相当である。しかし、添付文書には「副腎皮質ホルモンをプレドニゾロン換算で、錠剤として1錠中2.5mg相当量を含有する」と書かれている。
ここは???であるが、半減期など考慮すると視床下部-下垂体-副腎系抑制がそれだけ起こりやすいのでこう記載しているものと考えられる。用法用量は「成人には1回1〜2錠を1日1〜4回経口投与」→1日1~8錠→プレドニン換算で2.5~20mgとかなり攻めたステロイドの量となる。かかりつけ医がセレスタミン®を中長期処方した状態の患者が救急外来に運ばれてきて、薬剤名だけみて勘違いして入院中にセレスタミン®off使用もんなら続発性副腎機能不全になってしまう。
ステロイドの効果を減弱する薬、これは覚えとこ
ステロイドは体内で一部、CYP3A4(シトクロムP450)を介して肝代謝される。フェニトイン、フェノバルビタール、カルバマゼピン、リファンピシンなどはCYP3A4を誘導するためステロイドの代謝が促進され、治療抵抗の原因となる。上記のような薬を用いて、てんかんの治療、結核の治療を行うとともにステロイド投与しなければならないシチュエーションではプレドニゾロンの必要量が2倍になるとの報告もある。
(川合眞一ら:リファンピシン併用によりステロイド治療抵抗性を示した膠原病症例とその薬物速度論的分析.リウマチ 1984;24:32-37.)
まとめ
高用量投与例や1カ月以上の期間投与することが前提の導入であればfollow upしてくれる医師と相談の上、開始するがいいかもしれない。
つまり、救急外来、ICUでステロイドを使用する場合は抗炎症作用を狙った短期に投与の場合であり、数日程度の投与で以降も継続が必要であれば専門科に相談となろう。
そのセッティングで気にする副作用はあまり気にすることはない。「高血糖、血圧上昇に留意する」こと。「中等量投与の患者には視力異常があれば眼科受診いただくこと」「高齢者、心不全、腎不全の既往の患者はNa貯留による体液過剰は懸念されること」「NSAIDs内服患者の場合は、中止する or Cox阻害に変更 or PPI投与」などくらいを覚えておくようにしよう。
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