救急外来でステロイド投与したことあるかい?
ステロイドってアレルギーの時とかは投与しますけど。いまいち、使い方がわからないんですよね。
喘息、COPD、アレルギー、敗血症、細菌性髄膜炎、重症肺炎、ADRS、喉頭蓋炎、クループ、ステロイドカバー、副腎クリーゼ、亜急性甲状腺炎、気管挿管抜管前云々・・・。メリットデメリットにはcontroversialな部分があるが救急外来でもステロイドの知識は必須だぞ。
あ、ああ。めまい、蕁麻疹が、呼吸苦もでてきました。先生の「ステロイド使用」という言葉に対してアレルギー反応が・・・。症状からアナフィラキシーですね。ステロイド投与をお願いします。
確かに、症状はアナフィラキシーっぽいね。アナフィラキシーに対してステロイドはエビデンス十分じゃないしね、1stじゃない。やはり、勉強が足りんね。
救急外来におけるステロイド治療。
もともと飲んでいる人もいれば、入院前提に使用を開始する場合、また外来で短期で使用する場合などさまざまです。救急外来でも救急医がステロイドに関してマネジメントしないといけないことも多いもんです。
膠原病リウマチ科、呼吸器科と相談すべきタイミングも多々ありますが、救急医的なステロイドへの向かい合い方、まとめてみました!
そもそも何のために使うのか?
ステロイド、副腎皮質ホルモンの1つであるが、医療的に投与する場合、意義は大きくは3つである。➀抗炎症を期待して(浮腫も)
②免疫抑制を期待して(アレルギーも)
③補充
③補充に関しては、もともとステロイド内服中の患者のステロイドカバーや相対的副腎不全、副腎機能低下症などイメージはつきやすいだろう。正常人では生理的にプレドニゾロン換算で5mg/day(ストレス時、~20mg/day)産生されている。
➀抗炎症と②免疫抑制に関してはちょっとイメージしにくいが、「正常に頑張っていた免疫さんがある日、反乱起こして身体のいたるところで小火、火事を起こしだした。」ってな状況への対応として、「免疫抑制:反乱している免疫さんを押さえて火事を起こさないようにする」「抗炎症:起きてしまった小火、火事を消す」という解決策があると、イメージ捉えてみて欲しい。
ステロイドは免疫さんも抑え、火事も消せる自警団のようなやつです。しかも、効果は他の免疫調整薬より早い。特に目下、火事は早く消さないと臓器損傷が起こってしまいますので火消優先です。
火事が大火事であれば大火事であるほど、自警団をドカッと投入して鎮火(パルスなど)して、小火になったあとはステロイド自警団を撤退させずに炎症、免疫を押さえていく。
一過性でない中長期の対策が必要な免疫さんの反乱に対してはステロイド自警団(副作用が幅広いので)は最小限にして他の免疫調整(抑制)薬兵で免疫さんを抑えていくこととなります(基本的に免疫抑制効果は数週かけて出てきます)。
つまり、救急外来、ICUでは急性期の今起きている火事を抑えたいという意味合いが強く、ステロイド使用に関しては火消(抗炎症)の要素が強い。火消の後、自己免疫疾患や気管支喘息などは維持/コントロールとして長期に使用するかもしれませんが、少量にしたいし、なるべく他の薬を併用したりします。
救急外来で診断をせずに、救急医が独断でステロイドパルスをするのは良くないのは前提ですが、重症心筋炎、急に進行している間質性肺炎や糸球体腎炎、肺胞出血、多発性硬化症の急性増悪、視神経炎、CNSループスなどを疑った場合は専門医に相談の上、いや、最悪そうでなくても採れる検体を採取した上で早々に投与してしまうことも検討かなと思います。
救急外来など緊急性が高い状態で確定診断がついていない場合に重要なのは感染を否定もしくはコントロールしていること、病名、診断に対してというよりは症候、病態に対して使用するというスタンスかなと思います。
「各ステロイド剤の特徴」のこれだけは!~投与経路、効果、半減期~
投与経路 経口 vs 点滴
他の医師が救急外来でプレドニンを内服させているところをあまり見たことないですけど、僕は基本経口投与にしている。喘息発作でも飲める場合はプレドニン錠を30mg程度内服してもらっている。
静注薬でよく用いるソル・コーテフ®、水溶性プレドニン®、ソル・メドロール®などはコハク酸エステルステロイドであり、NSAIDS過敏、アスピリン喘息などには使用できないからである。
ま、静注を使用するならリン酸エステルステロイド(水溶性ハイドロコートン®、デカドロン®、リンデロン®)を使えばいいのだが完全の安全とは言えないので呼吸状態が悪い、腸管に浮腫など問題がある場合以外は経口でいいのではと思っている(自身で困ったことはない)。
もちろん、理論的に後述のnon-genomic effectを狙った治療をしたい場合は、気管支喘息でもソルメドロール®静注したりするし、パルスをする場合、5mg錠を200錠飲ませる鬼畜内服は微妙なので静注を使用する。
気管支喘息発作の治療で、ステロイドを静注をしたい+non-genomic effectを期待したい場合は、「デカドロン®6.6mgを点滴」くらいが一番無難な気がする(NSAIDs歴、ステロイド静注歴問題なければ、コハク酸エステルでよさそう)。
投与量に関しては生体利用率、腎排泄率などから「置き換えは同量でいい」「経口➡静注にするときは増やせ」いや「デキサメサゾンを静注➡経口にするときは増やせ」と、いろいろ研究により議論の余地はある。私としては、救急外来では多少のストレス状態下を想定するので常用で経口投与されていた患者において点滴をする(治療にしても補充にしても)ときは必要換算の1.5倍程度を意識して投与するようにしている。
genomic effect と non-genomic effect
【genomic effect】
一般的なステロイドの効果発現機構はステロイドが細胞質内に入り、ステロイド受容体(glucocorticoid receptor:GR)と結合。そのステロイド-GR複合体が核内に移行して遺伝子内にあるステロイドの特異的エレメントに接合し、遺伝情報の転写を促進して蛋白質合成を行うよう調整する。一部の抗炎症蛋白の転写もこれにより促進されるわけです。その臓器の応答(効果発現)には数時間かかります。genomic effectはGRを介するのでプレドニゾロン換算で約1 mg/kgでGRは飽和し、効果がピークに達するとされています。なので一般的にプレドニン投与は多くても体重60kgの人に60mgが最大であり、これ以上は効果が期待できないわけですね。
【non-genomic effect】パルスの時に考える
いや、もっと高用量のステロイド投与してますやん!
というツッコミに関してはこのnon-genomic effect(核のゲノムを介さない)という機構です。全部は解明されていないが、神経組織、筋組織、上皮組織、T細胞などの細胞膜にはGRがあり、ここに作用する機構。またステロイドパルスなどの高用量では細胞膜に非特異的に作用し、マクロファージ、好中球などの貪食作用抑制、活性化酸素産生抑制、細胞膜カルシウム抑制などの効果があるのです。
非ゲノム的な機構の特徴は効果発現が分単位と早く応答が行われる点です。
糖質コルチコイド作用 と 鉱質コルチコイド作用
使用するステロイド剤は糖質コルチコイド作用、鉱質コルチコイド作用がある。中枢性塩類喪失症候群、塩類喪失腎症、鉱質コルチコイド反応性低ナトリウム血症、敗血症に用いることも検討されているフルドロコルチゾン(フロリネフ®)は鉱質コルチコイド作用(ヒドロコルチゾンの125倍)を考えて投与するが、救急外来で使用する抗炎症を目的とするステロイド剤は糖質コルチコイド作用の力価で覚えちゃえばいいと思う。
効果発現、半減期
効果発現に関しては高用量の投与のnon-genomic effectに関しては投与後まもなく発現すると考える。genomic effectに関しては数時間かかると考えられ、私は救急外来では2時間程度後に効いてくるイメージで考えている。
あまり、詳細な論文は見つけられていないが、私はヒドロコルチゾン(ソル・コーテフ®注)は即効性があるように口伝されたし、臨床的にもそのように感じている。使用としては副腎不全、相対的副腎不全(ステロイド内服患者のストレス状態、怠薬、敗血症など)が良い適応であるが即効性を考慮して気管支喘息などに使用している(力価は弱いので200mgとか250mg投与となるのだが)。
血中消失半減期はコルチゾン、ヒドロコルチゾンが1.5時間、プレドニン、メチルプレド二ゾロンが3時間程度、デキサメサゾン、ベタメタゾンが5時間となっているが生物学的半減期は下の図の通りと長い。
この差を使って適応疾患を換えている。ヒドロコルチゾンが即効性、半減期の観点から細かく調整できるので投与方法によりステロイドの日内変動を演出できるので原発性副腎不全の場合は良い適応である。またプレドニン、メチルプレドニンは作用時間が比較的短く、電解質への影響も少ない、かつ免疫調整など長期の場面でも細かく増減しやすく第一選択薬である。デカドロンはというと限られているがクループの治療1回飲み(1回で長く効く)、COVID-19、細菌性髄膜炎の治療、脳浮腫治療(鉱質コルチコイド作用がないので浮腫予防に良い)などには使用する。
【参考】
Coursin DB, Wood KE. Corticosteroid Supplementation for Adrenal Insufficiency. JAMA. 2002;287(2):236–240. doi:10.1001/jama.287.2.236
Wang M:The role of glucocorticoid action in the pathophysiology of the Metabolic Syndrome. Nutr Metab (Lond)2(1):3, 2005
Buttgereit F et al. Standardised nomenclature for glucocorticoid dosages and glucocorticoid treatment regimens: current questions and tentative answers in rheumatology. Ann Rheum Dis. 2002 Aug;61(8):718-22.
日内会誌 100:2881~2887,2011
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