はじめに
血液培養が臨床現場で重要な理由は皆ご存知だろう。血液内の菌の存在がわかれば治療の期間も違うし門戸(感染臓器)も推定できる。何より他の培養検体よりも比較的低侵襲で採取スピードが速いのが救急的には他の検体より採取閾値も低い。なんでもかんでも採取はNGであるが抗菌薬投与前という採取が望ましいタイミングが限られている検体であり、その採取の是非は早々に判断したい。
研修医の頃は何も考えずに、救急搬送レベルの発熱患者には採取していた気がするが、物心がついたころには重要性を知り、血培2セット採取が保険適応外であった2014年までは「なんで保険適応外やねん」といいながらせっせ、せっせ採取していたのを思い出す。
血液培養が陽性であった場合、患者の入院期間、抗菌薬投与期間が大きく変わる。陽性になれば治療せざるをえなくなる。先日も救急外来に研修医から「先生、一昨日、気管支肺炎と判断してレボフロキサシンを投与して帰宅してもらった80歳のおばあさんなんですが血液培養の結果が陽性になりました。今日、再度来院してもらうようにしたんで救急外来で対応してもらえますか?」っと連絡がきた。カルテを確認すると「採取2日後にGPC(CNS疑い)が4本中(2set)、3本で陽性、採取部は鼠経と上肢」であった。このエピソードを聞いて「ああ、マネジメントが面倒だな」と反応しなかったあなたは是非、この記事を一読を。
「いつ採るか?今でしょ!」と古いセリフを言いたくなる時。
➀菌血症を疑う時(敗血症含む)
血液培養採取=菌血症を疑う時とは?っというという問いと同義になる。
発熱+シバリング shivering 特に悪寒戦慄 Shaking chillsがある場合は菌血症の特異度が高い(Shaking chills; 特異度90.3%; Am J Med 2005;118:1417) のは良く知られているだろう。発熱がなくても目の前で悪寒戦慄があれば菌血症を疑いたい。ここに感度の良い食思不振もあればやはり菌血症を疑ってかかるに余りある。
疾患による検査前確率は蜂窩織炎:2%(自験的には範囲が広ければ血液培養検討してもいいと思うが)、敗血症性ショック:69%と様々。市中肺炎であれば重症、アルコール関連、胸水、慢性肝疾患、好中球減少、肺炎球菌感染疑い以外は菌血症リスクはそこまで高くないとは言われているし、救急外来の初療では特に疾患により決め打ちはしにくいのが現状ではある。
一方、敗血症の場合は早々に血液培養を採り、鑑別しながらなるべく早く(ショックなし3時間以内、ショックあり1時間以内)抗菌薬投与することとなるため敗血症、ショックを判断したら即採取でよいと思う。敗血症につながるが意識障害、呼吸不全、腎不全があるが場合も前確率を上げる。
また、外傷、熱傷、蘇生後+感染疑い、髄膜炎、腹膜炎、腎盂腎炎などの状況、好中球減少、デバイスが入っている患者は菌血症リスクが高く≒血液培養採取となる。
逆に発熱や白血球上昇のみでは菌血症を疑えるとは言いにくい。39.4℃以上の発熱で菌血症のリスクが高いとの報告もあり予測ルールには用いられるが(The J emer med 2008; 35: 255-64.)、体温という要素のみよっては陽性尤度比の上昇はなさそうである(for ≥38°C, LR, 1.9 [95% CI, 1.4-2.4]; for ≥38.5°C, LR, 1.4 [95% CI, 1.1-2.0]; for ≥40.0°C, LR, 0.3 [95% CI, 0.1-1.0])ことは知っておこう。むしろ、低体温は重症敗血症である可能性も考えないといけない状況である。
Coburn B, Morris AM, Tomlinson G, Detsky AS. Does this adult patient with suspected bacteremia require blood cultures? JAMA. 2012 Aug 1;308(5):502-11. doi: 10.1001/jama.2012.8262. Erratum in: JAMA. 2013 Jan 23;309(4):343. PMID: 22851117.
②抗菌薬を投与するのでタイミングを逃せない:抗菌薬投与してしまったら菌血症がなくなる。
上記通り、アセスメントが十分ではない状況でも重症例では広域に抗菌薬を投与しないといけない。髄膜炎などでは髄液の検体を取る前に抗菌薬を投与しなければならないこともある。そういう時は少なくとも血液培養は2セット取っておいてから抗菌薬を投与しようということである。
③治療がうまくいかない
④治療効果の確認:特に持続菌血症、GCP陽性例の場合は重要。
この2つは入院した際に再度評価必要な時のタイミングである。治療がうまくいかない場合、新規の菌血症が起きている可能性も考慮すべきであるし、培養結果次第では耐性菌の出現もあるため再度評価する。持続菌血症においてはドレナージが必要な症例もある。また、賛否はあるが広範囲熱傷など常に菌血症のリスクがある場合は定期的に監視培養としての血培採取も行われている。
GNR菌血症は基本再検は不要である。GPC菌血症、特に黄色ブドウ球菌の場合は感染性心内膜炎を考慮し抗菌薬投与後3日程度で再検をする。もちろん、GNRでも感染性心内膜炎を疑う場合は治療中にも再検する必要がある。Candida菌血症は血培陰性化から2週間が標準治療期間であり、これも必ず陰性化確認をするがよいと思う。
採取時の注意
感染症治療において血液培養が正しい治療に役立つ、死亡率を低下させることは皆が知っていることであるが採血時の注意点に関しては初学者は抜け落ちていることが多々ある。手袋は清潔(滅菌)でなくても良いとか、アルコール綿での消毒で十分だとか、ボトルに入れる時に針は換えなくてよいだとかそんな知識だけばかりいきわたるもんだから、救急外来の血培はコンタミが多いなどとお叱りを受けるのです。
もちろん、汚染の少ない部位であればちゃんとアルコール綿で消毒しただけでも良いし、コストもかかるので清潔手袋でなくても針の清潔を保ち採血が出来ればよい、針を換える時に針刺しが起きやすいので針は換えなくてよい、というのは正解である。しか~し、清潔手袋、クロルヘキシジンアルコール、針換えがコンタミ率を下げるという報告があるのも事実。特に不慣れな手技者にはね、できる対策はして欲しいのである。(針刺ししたら元も子もないですが)。
Dawson S. Blood culture contaminants. J Hosp Infect. 2014 May;87(1):1-10. PMID: 24768211.
上記に注意をまとめてみました。参考になれば嬉しい。
陽性になった時に考えること
検査室から血液培養陽性の報告を受けた時、その患者が入院治療中で「やっぱりな、陽性になると思っていた。」という場合や広域抗菌薬投与中であれば特に問題なく、新しい情報をありがとう、対応するわ的な気持ちである。しかし、抗菌薬外来follow・経過観察になっていた場合やもっと最悪は抗菌薬未投与、不適切な抗菌薬選択っぽい経過であればこれはもう絶望である。まず患者さんの様子を確認し、状況を説明し、再度、評価するために来院してもらうこととなる。
起因菌を予想する
COVID-19の影響もあってPCR検査の普及、閾値の低下がここ数年、顕著である。PCRできない施設は多いこと、コスト問題、臨床的に菌種をおおまかば推定で初療は十分である点、白血球貪食像を確認するなど重要な評価がグラム染色で可能なのでグラム染色は現状なくならないのだが、米国ではPCRで菌種判明させて治療なんてのも主流なわけである。FilmArray Ⓡ では、約 1 時間で血液培養検体に含まれる特定の微生物の核酸を検出が可能で、薬剤耐性なども検出できる。特に無菌であること前提の髄液や血液は検体として相性が良いと思う。よって血液培養陽性例ではPCRして菌種を判定するというのは良い戦略である。
PCR以外ではグラム染色、培養結果待ちという感じで、最初に「GPCです。」「GNRで腸内細菌っぽいです。」なんていう連絡がある。他には陽性ボトルのパターン、例えば好気+嫌気で陽性な菌は多いが「好気のみで陽性であればバチルス属、緑膿菌、真菌とかかな?」「嫌気のみ陽性のGPRか、クロストリジウム属かな」とか推定するし発酵の有無、ガスの有無なども推定に役立つので検査技師さんなどとコミュニケーションをとるとよい。グラム染色の見た目やボトル内の溶血、粘液性など見た目で「公式には返答できないですが〇〇っぽいですね」などと教えてくれたりもする。
カルテや報告の検査結果のみでなくある程度、踏み込んで技師さんに聞いてみるのも一つかなと思っている。
コンタミの罪
コンタミネーションがあると困ったことになる。無駄な治療期間の延長、抗菌薬の投与期間、医療コスト(何十万も余分にかかるとか・・・)の問題も発生するし、CNSなどの菌が1セットから出るくらいならまだしも、2日後に4本中3本から出ましたとか言われると抗菌薬を切るのにはけっこうな勇気がいる(私は)。しかも薬剤耐性を考えるとバンコマイシン投与するんですか?ってなる。前述のとおり予防は重要であるのが前提に、血培陽性がコンタミか否かの判断をできるようになりたい。
簡単にイメージすると、真菌やGNRの検出は真の菌血症としてあつかう。GPCに関しては菌種が関わってくるのでそれぞれ確認する必要がある。大きくは黄色ブドウ球菌、表皮ブドウ球菌などの確認が必要となろう。GPRはコンタミネーションである可能性が高いが注意すべき菌や状況を知っておく必要がある。いずれも、免疫不全患者や人工弁、異物、デバイスを挿入している患者に関してはリスクが高く、再度評価、全身状態の変化含め治療適応をしていく必要がある。
陰性になった時に考えること
陰性の場合は「あーよかった」っでよい。
わけではない。。。陽性であるよりはもちろん良いのであるが、陰性の場合も考えることはある。
●血培採血の前に抗菌薬投与されているから陰性なのでは?
●培養陽性化に時間がかかる菌がいる(嫌気性菌、真菌:2-3日)。陰性確認は5日間の培養でOK。
●菌量が少なかったのか?(コンタミの方が真の菌血症より菌量が少ないので普通より10時間ほど余計にかかる。ブ菌、腸球菌…真:24時間 ➡ コンタミ:35時間)
●採血量が少なすぎる、多すぎる
など考慮する必要がある。
臨床経過で状態が悪い場合は、診察の追加、血培の再検も考慮すべきであるし、全身状態が良い場合は一度抗菌薬を中止して慎重に経過をみることも重要である(中止後の再検も)。
さいごに
血液培養は何故とるのか、どのように採るのがより良いのか、どのように評価するのかに関してザっと述べてみた。
「冒頭では述べた気管支肺炎疑い、レボフロキサシン内服、2日後の血液培養でCNSが3/4本、80歳のおばあちゃん」は再診時、比較的全身状態は安定していた。血液検査ではCRP1.6 ➡ 8.2 mg/dl、WBC:1.6万→1.3万 /μL程度で2日前よりCRPは上昇していた。診察をしなおし、やはり気管支肺炎であろう状態であり、一抹の不安はあったがコンタミと判断し、再度血液培養を採って、5日後に再受診とした。再検した血培は陰性であり、治療は気管支肺炎の治療をし終了としている。以降はかかりつけ医に紹介し、再来院などは今のところない。よかった。。。
一般論や評価方法などを書いてみたが、なるべくコンタミは出さないように意識すること、これに尽きるのである。
コメント