指尖部外傷(爪脱臼、爪下血腫)を診察する。Schiller法を知ってるかい?

ある救急医の頭ん中

・爪の外傷は骨折の「ある」「なし」でリスクが異なるため評価する。
・処置手技としては指神経ブロック、指ターニケット、schiller(シラー)法、爪下血腫ドレナージを覚えておこう。
・患者への説明、適切なフォローアップ計画を。

 指先のをプレス機に潰されたり、勢い余って包丁で切っちゃったりする人、連続で3人救急搬送されてくる・・・。多すぎないか?今日。

自分の体の一部が欠損しかかるっていうのは、とても怖い。患者さんは気が気ではない。
しかし、診療する医師も気が気ではない。
悪くなったらどうしよう、整容面がうまくいかなかったらと気をもむわけで、とりあえず、初療だけはしっかり遜色なく行い、follow upを専門科にバトンタッチできるように日々、頑張っているわけです。

頻度が多い外傷なので、ここでまとめておこうと思う!

爪の解剖、生理

図1:指の解剖(爪) 日本医科大学付属病院 小野 真平先生の図解は秀逸であるので是非、一度検索してみてね。

末節骨は爪側(背側)に近く位置しており、互いをつなぐ組織は密である。爪、爪床の損傷、爪脱臼などでは末節骨骨折を併発する可能性がある。
爪甲の成長は爪母からであるので爪母の損傷は慎重にリペアする。
爪床は伸びてきた爪の通り道であるので治療後、爪床の凸凹はないように心がける必要がある。
解剖生理を知って治療にあたるとより慎重にすべきことがわかってくる!

初期評価

爪周囲(指尖部)の外傷の多くは仕事中に刃物で切ったり、ドアやプレス機で挟まれてくる。
受傷起点の詳細、発生時間、利き手、患者の仕事などは聴取し、カルテ記載する。
一般的な外傷と共通する点は神経、血管、腱、骨の損傷有無を確認することである。

爪周囲の外傷では創部の評価は必要であるが、他に3つチェックしておく必要がある。
末節骨骨折:爪の外傷の50%は骨折を伴っているとされておりレントゲン撮影は正側2方向で撮影するべきである。爪下血腫で受診時もレントゲンを。➡骨折があれば開放骨折となっていることが多い。
動脈/神経の損傷:指尖部であれば吻合は難しいが後述のように玉井分類zoneⅡより中枢の場合は専門科に相談。➡完全に指尖への血流がない場合は不全断裂。もちろん離段していれば完全断裂の評価となる。
爪脱臼:爪上皮と爪母のところは爪を引き抜かれ損傷している。そこが癒着すると爪が生えにくいのでここでSchiller(シラー)法の登場。

実際の治療

一般的な外傷と同様に洗浄、止血、創の縫合 ➡ 抗菌薬や投与や破傷風予防の考慮となる。

処置に必要な指ブロック、指ターニケットはこちら。

指尖部切断

指切断治療適応について。

私は不全/完全切断の場合はAllen分類TypeⅠ、Ⅱの場合は生着が厳しいことを説明し、洗浄の上、縫合して翌日、形成外科、整形外科に受診してもらっていることが多い。
 ことTypeⅠで断端が場合などは軟膏塗布でそのまま経過をみてもらい徐々に1カ月程度で盛ってきますよと説明して、有事再診か、一般の外科系の開業医の先生にお願いすることも多い。先端をスライスされたような傷で出血がじわじわ止まらない場合はアルギン酸塩ドレッシング(アルゴダーム®、カルトスタット®、ソーブサン®)をつけて圧迫して出血がコントロール出来たらそのまま帰宅して翌日愛護的に濡らしながらアルギン酸塩ドレッシング off ➡ wet dressingとしている。
 TypeⅠ、Ⅱの断端を縫合する場合、糸は細めのナイロン糸で縫合し、圧かけ過ぎないようにしている(ステリストリップ〈TM〉などテープ併用することも)。生着つかなくても被覆材となる。

【末節骨骨折を伴っている場合】
末節骨骨折+不全/完全切断➡整形外科に相談し対応。
転位の大きな横骨折、関節面の骨折(きれいな縦骨折は安定してれば除外)+縫合可能な創➡整形外科に相談し対応➡整復、縫合、固定で整形外科受診になることもあれば早々にピンニングの方針となることも。
・転位の少ない末節骨骨折+縫合可能な創➡洗浄、縫合、固定、抗菌薬➡翌日整形外科
・末節骨骨折+爪脱臼(爪床の傷)➡洗浄、爪床の縫合(細い吸収糸:PDS、バイクリル)、Schiller法して抗菌薬処方➡翌日整形外科受診

抗菌薬は一般的にセファレキシン(ケフレックス®、ラリキシン®)が選択されるかなと思う。

爪下血腫

爪下血腫
爪下血腫

爪甲下に血腫が形成されると内圧があがり、知覚神経終末を刺激してとても痛いため救急外来に受診されることも多い疾患。血腫形成だけの場合もあるが爪母、爪床の損傷、末節骨骨折を伴う場合もあるのでレントゲンなどの評価はしておく。広範囲な血腫(爪の50%以上)や末節骨骨折を伴う場合は抜爪して評価することも言われているが私は血腫ドレナージのみ行い、抜爪の可能性を説明し固定して整形外科にコンサルトしている。
血腫ドレナージは18G針を用いて穿刺する。治療奏功のポイントとしては十分な穴が開いていること(複数の方が閉塞リスクをカバーできるので良い)、受傷48時間以内であることである。

【説明】
洗浄時、圧迫でガーゼ保護、RICE(安静、冷却、圧迫、挙上)、24-48時間後よりシャワーを。
・血腫だけであれば経過観察 or 救急外来で7-10後にfollow up。
・末節骨骨折+爪下血腫➡爪穿刺ドレナージ(基本問題になることはないが開放骨折を作っている可能性があるので骨折のある場合はより清潔を意識している)、抗菌薬処方➡翌日整形外科受診
爪が残っていても経過で爪が外れる可能性がある(爪甲剥離)。爪が剥離してから半年~1年で爪は生えかわる。手の方が早い。爪の変形はありうる。

爪脱臼

根本のみ抜ける爪根脱臼、全部とれてしまう爪甲脱臼があるが基本考え方は同じである。
➀レントゲンで骨折の有無を確認。
②末梢の感覚、血流を評価する。
③指ブロック注射、指ターニケットの検討。
④生食で洗浄。
④縫合

【ポイント
✔ 爪母の損傷があるので爪上皮と爪母の癒着を防ぐ(下記Schiller法など)。
✔ 末節骨骨折があれば開放骨折となる。
✔ 爪床の損傷は縫合はなるべく細い吸収糸でおこなう(バイクリル、PDSなど)。
✔ 爪根部にしっかりはめ込むように爪の整復をする!!!
➡しっかり整復すると末節骨骨折があった場合もそれだけでしっかり整復固定がなされることも多い。

【説明】
洗浄時、圧迫でガーゼ保護、RICE(安静、冷却、圧迫、挙上)、24-48時間後よりシャワーを。
・脱臼だけであれば 救急外来でfollow up。数日内に1回、可能なら1週間後1回確認、2週間後抜糸。
・末節骨骨折+爪脱臼➡開放骨折と判断し、抗菌薬処方➡翌日整形外科受診
爪が残っていても経過で爪が外れる可能性がある(爪甲剥離)。爪が剥離してから半年~1年で爪は生えかわる。手の方が早い。爪の変形はありうる。

この記事全般で言えるが明らかに骨断面が露出している場合は骨髄炎などのリスクから抗菌薬は必要だと考えるがそれ以外は抗菌薬の明確な創部感染予防のエビデンスはないのが現状。十分な洗浄が重要です。といっても抗菌薬処方しますよね。。。

参考


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すべての外科系医師に役立つ キズをきれいに確実に治す形成外科基本手技: 患者満足度アップのワザとコツ | 山本直人 |

救急整形外傷学 | 田島 康介 |本 |

Lloyd Champagne, Joshua W. Hustedt, et. al. Digital Tip Amputations from the Perspective of the Nail. Adv Orthop. 2016

Rubin G, Orbach H, Rinott M, Wolovelsky A, Rozen N The use of prophylactic antibiotics in treatment of fingertip amputation: a randomized prospective trial. Am J Emerg Med. 2015 May;33(5):645-7. Epub 2015 Feb 7.

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