
その患者は数時間も経っても意識の改善がみられなかった。
「アルコール臭があるので、寝ておいてもらいます」
「こっちは華金に働いているっていうのに、飲酒で運ばれるとか勘弁してよね。」
報告してくれた医師は悪くない。僕だって同じ判断をしていたかもしれない。
愚痴を言ったスタッフの気持ちもよくわかる。救急の現場で飲酒患者に関わるということは全員にとってとてもストレスのかかることだ。
アルコール関連救急の本当の怖さは、本当にただ酔っているだけの患者さんが圧倒的に多いことにある。だから油断する。だから見逃す。
僕たちの敵はアルコールだけじゃない。アンカリングと、感情/認知バイアスなんです。ERでアルコール患者さんの前に立ったとき、最初にすべき問いはひとつ。
「この意識障害は、アルコールだけで説明できるか?」
この問いを立てる癖をつけると少し見える景色が違ってきます。
僕の師のそのまた師がいうところの「夜中に2時の急性アルコール中毒患者に腕まくりして対応できて初めて一端の救急医」というわけである。
この記事では、ERでアルコール患者の前に立ったときの思考フレームを実践的に整理しようと思う。
「寝かせておく」が許される条件
ここを曖昧にしている教科書も多いが、率直に言おう。
「寝かせておくだけ」が許されるのは、以下が全部揃ったときだけです。
- 若くて健康な成人
- 飲酒量と時刻がわかる、急性の飲みすぎ
- GCSが時間とともに改善している
- 外傷なし、既往なし
こういう時は側臥位で気道を確保し、適宜、意識レベルを確認しながら自然覚醒を待つことは、合理的な選択になりえます。
これが揃わないまま「酔いだから」と結論づけることは、評価の放棄に近い。
アルコール臭は、「アルコールだけで説明できる」の根拠にならない。
GCSが改善しない、低体温、バイタル不安定、頭部外傷の形跡、肝疾患の既往、抗凝固薬内服、発熱・・・これらが一つでもあれば、「観察のみ」という選択肢はよしたほうがいい。
特に慢性飲酒患者が抱えるリスクを前にしては、観察のみはけっこうギャンブルです。
AIUEOTIPSを必ず一周するとよい
意識障害の鑑別をAIUEOTIPSで一周する習慣がある医師は多いと思う。アルコール患者では、この頭文字のほぼ全項目が通常より高いリスクで存在する。
| 頭文字 | 病態 | アルコール患者での特記事項 |
|---|---|---|
| A | Alcohol / Acidosis | AKA・乳酸アシドーシス |
| I | Insulin(低血糖・高血糖) | 慢性飲酒者は空腹時低血糖を起こしやすい |
| U | Uremia | 肝腎症候群で急性腎不全 |
| E | Encephalopathy / Epilepsy | 肝性脳症・離脱痙攣 |
| O | Opioids / Overdose | 複合摂取(向精神薬・睡眠薬) |
| T | Trauma | 硬膜下血腫 |
| I | Infection | 誤嚥性肺炎・SBP・蜂窩織炎 |
| P | Psychiatric / Poisoning | うつ・自殺企図・CO中毒 |
| S | Stroke / Seizure | 脳梗塞・SAH・離脱痙攣 |
特に押さえておきたい3つ。
低血糖
慢性飲酒者は肝グリコーゲンが枯渇しており、空腹時低血糖を起こしやすい。そして低血糖は、酔いと区別がつかない形で現れるんですよね。「血糖を確認してから他の評価を始める」という順番を、体に染み込ませておくといいと思います。
頭蓋内病変
慢性飲酒者には三つのリスクが重なっています。
脳萎縮による架橋静脈の脆弱化、凝固障害、そして転倒しやすい。「痛くない」は「外傷なし」の根拠にならない。
カナダ頭部CT基準では、GCS低下とアルコール中毒は即時CTの適応です。「酔っているから評価できない」は、CTを後回しにする理由ではなく、撮る理由に分類されます。
実務的には、以下のいずれか一つでも当てはまればCTを撮ることにしている。
・GCS<15(これは運ばれてくるアルコール飲酒患者のほとんどであるので議論あり)
・転倒・殴打などの外傷機転あり
・局所神経症状、繰り返す嘔吐
・65歳以上(年齢をcut offにするのは微妙かもしれないが飲酒が加われば閾値低くていい)
・抗凝固薬の内服
・・・そして上記に当てはまらくても2時間経過してもGCSが改善しない場合。
頭蓋内は「様子を見ている」間に、血腫が静かに広がっていることがあり得る。
僕は頸椎の評価もしておいた方が無難だと僕は考えている。最低、頭部外傷がある場合はレベル改善まで頸椎カラー装着が望ましい。
離脱
慢性的に飲酒している患者さんはコレに注意。最終飲酒からの時間軸を、必ず確認します。
| 最終飲酒からの経過 | 症状 |
|---|---|
| 6〜24時間 | 発汗・振戦・頻脈・不安 |
| 12〜48時間 | 離脱痙攣 ★ |
| 24〜72時間 | 幻覚(視覚性・聴覚性) |
| 48〜96時間 | 振戦せん妄——死亡率最大15% |
「昨夜が最後の一杯」という患者は、今まさに離脱の入り口にいる可能性があります。入院して禁酒が始まれば、そのまま離脱が進行する。これを見越して動けるかどうかで、結果が変わってくるんですよね。
【検査】何を、なぜ、どの順番で?
僕は患者さんが到着したらまず血液ガスを測ることが多いです。血糖・pH・乳酸・AG・COHbを一気に確認できる。それは脱水のアセスメントになるし、慢性飲酒者は肝グリコーゲンが枯渇していての低血糖、アルコール性ケトアシドーシス(AKA)の確認にもなる。
アルコール性肝硬変の既往を考慮する患者の場合は採血はアンモニア、そして見落とされがちな血小板とPT-INRも忘れないようにしています。血小板減少と凝固障害が組み合わさると頭蓋内出血リスクが跳ね上がりますから。
Wernicke脳症を疑う場合はビタミンB1なりを測っておくこともあります。
あと低体温は冬場に特に見落とされやすいんですよね。体表面が温かくても深部体温が35℃を下回っていることがという「逆やないかい!」現象が起きうる。
腋窩ではなく深部体温で確認する習慣を、つけておくといいと思います。
「先生。輸液してください。点滴でよくなるんです」の正体
アルコール患者に輸液する根拠として、最もよく聞く理由は「早く覚める」「血中アルコールが早く下がる」というもの。しかし複数の研究がこれを否定しています。
アルコールの代謝速度は肝臓の酵素反応で決まり、生理食塩水の点滴がそれを速める機序はない。Li らの1999年の研究も、東京・自衛隊中央病院での前向き研究(2023)も、同じ結論を出しています。
「輸液は覚醒時間を短縮しない」。
では、「点滴するとよくなった」は嘘っぱちなのか。
そうではなく「別の理由で正しい」のかもしれないですね。点滴するというのは4つの恩恵をくれます。
それは時間の経過、安静と保温環境、本当に脱水であれば輸液による補正、治療を受けた感(無視できないプラセボ)
「よくなった」の正体はおそらくこれらです。
つまり「点滴してもらいに来ました」に対して答えてみるとすると・・・
「脱水があれば輸液は有意義ですが、アルコールを早く抜かせる効果はありません。よくなったと感じるのは時間が経ったからだと思います」です。
ただ、脱水補正の必要がなければデメリットが残ります。医療資源のコスト、感染リスク。そして見過ごされがちな問題として、「ERに行けば点滴で楽になる」という認識を強化し、依存行動を促進してしまうこと。これは医療倫理の問題でもあるんですよね。
チアミンをお先に。
慢性飲酒が疑われる患者には、グルコースより先にチアミンを投与する。僕はこれを義務だと思ってやっています。
なぜか?チアミン(ビタミンB1)は、グルコースを代謝するときの補酵素。慢性飲酒者はこのチアミンが枯渇(摂取低下、吸収低下、アルコール代謝に利用)しており、そこにグルコースを大量に投与すると残存チアミンが一気に消費され、Wernicke脳症を発症させるリスクがあります。
Wernicke脳症が進行すると、回復不能な記憶障害(Korsakoff症候群)に移行する。
それを防ぐのが「グルコースよりチアミンをお先に」という、手順です。
Wernicke脳症の古典的三徴:眼球運動障害、運動失調、意識障害が三つ揃うのは全体の16〜38%にすぎないとされています。だから「三徴がないからWernickeではない」という判断はNG。
予防的投与(慢性飲酒者全般): チアミン 100〜200mg IV(経口吸収は信頼できない)
Wernicke脳症が疑われる場合 : チアミン 500mg IV × 3回/日 × 2〜3日 → 100〜200mg/日を継続注意:点滴で投与(急速静注は避け、100mLに混注)
投与量・頻度・経路・期間のいずれについてもRCTが不十分で症例ベースのエビデンスではあります。にもかかわらず、朝昼晩このビタミン製剤5本~10本のアンプル用意して輸液に充填する薬剤師さん、看護師さん、ごめんなさい。でも現時点のベストエビデンスに従って投与するが良いかと思っています。
血糖が正常なのにアシドーシス・・・これAKA
たかが飲酒、されど飲酒。救急外来で改善してくれることもありますが、下手したら集中治療室にご入室あそばされるのがこの病態、アルコール性ケトアシドーシス(AKA)。
DKAと間違えやすいんですよね。決定的な違いは血糖が正常か低いこと。ここを押さえておかないと、インスリンを投与してしまう。
基本、血糖>300の高血糖が伴っていない場合つまりDKAでない場合はAKA治療にインスリンは使わない。 ケトン産生がさらに増え、低血糖を招くから。
治療はチアミン先行、グルコース輸液、K・Mg補正、必要なら慎重な脱水補正です。
ただし、最近はSGLT2阻害薬内服中の正常血糖ケトアシドーシスがちょくちょくおられるので、この場合は、ブドウ糖投与とインスリン補充が必要となることは付け加えときます。
脱水補正の時の注意はNaの急な増減です。中心性橋髄鞘崩壊症や脳浮腫は背景に飲酒が絡むと起きやすいのでこれもご注意を。
離脱の治療はベンゾとMg。
先ほど述べたアルコール離脱に関しての治療はベンゾジアゼピン(BZD)が第一選択です。ジアゼパムは長時間型で使いやすいが、肝機能が著しく低下している患者や高齢者では蓄積しやすい。そういうときはロラゼパムを選びます。採用がない病院も多いですけどね。
ここで一つ、強調しておきたいことがあります。
離脱痙攣に、フェニトイン(ホスフェニトイン)は効かない。
痙攣だからフェニトイン、という条件反射が危険なのはアルコール離脱でも同じです。痙攣はBZDで制圧する。
そしてMgの補正を忘れないでほしい。MgはBZDの効果を支える土台で、これが不足していると、BZDを投与しても痙攣が制御しにくくなる。BZD投与と並行して、チアミン・Mg・電解質補正を必ず行うこと。難治例ではフェノバルビタールやプロポフォールが必要になることもあります。
帰宅の判断 「歩けるから帰す」では足りない
帰宅を判断するとき、「歩けているし意識もある」だけでは不十分です。
・バイタルが正常に戻っている。
・GCSが本人の基線に戻っている。
・頭部外傷と急性疾患を除外した。
・独歩が安定している。
・見守りができる同伴者がいる。
・慢性飲酒者であれば離脱リスクが低いと判断できる、またはフォローアップの計画がある。
これが揃ってようやく、帰宅を考えます。
見た目が穏やかで、会話もできて、「大丈夫です」と言っている患者が硬膜下血腫だったことがある。ふらつくから車いすも使いながら、家族に無理に連れ帰ってもらった飲酒患者が脳梗塞だったこともある。急性アルコール中毒診療ほど油断するし、慢性飲酒患者ほど、地雷が多い。
帰宅を判断する前に、もう一度だけ自分に問う。
「この意識障害は、アルコールだけで本当に説明できるか?」
この問いを面倒くさいと思うとき、ERで最も危険な医者になっている。
この問いがパールだと思うとき、一端の救急外来診療医になっている。
参考文献
- Schuckit MA. Alcohol-use disorders. Lancet. 2009;373(9662):492-501.
- Royal College of Physicians. Alcohol and other drugs. 2016 Guidelines.
- Latt N, et al. Thiamine in the treatment of Wernicke encephalopathy. Intern Med J. 2008.
- ASAM Clinical Practice Guideline on Alcohol Withdrawal Management. 2020.
- EASL Clinical Practice Guidelines: Management of alcohol-related liver disease. J Hepatol. 2018.
- Stiell IG, et al. The Canadian CT Head Rule for patients with minor head injury. Lancet. 2001;357:1391-6.
- Sullivan JT, et al. Assessment of alcohol withdrawal: the revised CIWA-Ar scale. Br J Addict. 1989.
- Goldfrank’s Toxicologic Emergencies, 11th ed. 2022.
- UpToDate. Management of moderate and severe alcohol withdrawal syndromes. 2024.
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