Evidence Update #04|狂犬病の曝露後予防、どこまで必要?

今回取り上げる情報
CDC Health Alert Network. Nationwide Increase in Reported Human Rabies Exposures: Rabies Post-exposure Prophylaxis Administration(CDCHAN-00533、2026年9月10日発出)
JAMA Medical News. CDC Issues Rabies Exposure Alert(2026年10月2日公開)

2026年10月2日、JAMAのMedical Newsで、米国CDCが狂犬病曝露と曝露後予防(PEP)の投与ミスについて警告を出したことが紹介されました。CDCによると、2026年7〜8月の狂犬病関連の問い合わせは前年同期より17%増え、少なくとも8州の保健部門からPEP使用の増加や投与ミスなどの報告がありました。薬局データでも、ワクチンと免疫グロブリンの使用量が増加していました[1,2]。ただし、17%増えたのは狂犬病関連の問い合わせ件数で曝露者数や患者数そのものが17%増えた、という意味ではありません。

米国の警告を、そのまま日本の流行状況に当てはめることはできないけど、海外での曝露後、日本で狂犬病関連の受診があるかもしれない。このCDC警告をきっかけに、元資料とWHO・厚生労働省の情報を確認し、日本国内でPEPが通常不要なケース、海外曝露後の対応、帰国後に接種を引き継ぐ際の注意点を整理します。

狂犬病は、発症前に防ぐ

狂犬病は哺乳類に感染するウイルス性疾患です。感染動物の唾液が、咬傷・ひっかき傷、または目・口などの粘膜や傷のある皮膚に触れて感染することがあります。

発症すると有効な治療法はなく、ほぼ致死的。一方、曝露後、症状が出る前に適切な創処置とワクチン接種を行うことで、発症を予防することができるとのこと[2,3]。

ヒトの狂犬病の多くは犬が感染源ですが、犬だけを考えればよいわけではないですよ。感染源となる動物は地域によって違って、コウモリやキツネ、アライグマなどの野生哺乳類が重要な地域もあります[2]。

どんな接触が「曝露」になるのか

WHOは、狂犬病が疑われる動物との接触を、曝露の程度によって3つに分類しています[2,3]。

カテゴリー接触の例一般的な対応
I動物に触れる、餌をやる、無傷の皮膚をなめられる接触部位を洗浄。PEPは不要
II露出した皮膚をかじられる、出血のない軽いひっかき傷・擦り傷創洗浄とワクチン
III皮膚を貫く咬傷・ひっかき傷、唾液が粘膜や傷に触れる、コウモリとの直接接触創洗浄とワクチン。未接種者では免疫グロブリンも検討

また曝露した国・地域、動物の種類、接触状況を合わせて、狂犬病リスクを評価する必要があります[1,3]。

「曝露源の動物が10日間元気であれば狂犬病じゃない可能性が高い」

これはCDCの10日間観察は米国のリスク評価の枠組みからくる文言です。動物の観察期間や、観察結果を受けてPEPを開始・中止する基準は、国や地域の状況によって異なります。厚生労働省Q&Aは、咬んだ動物が特定でき、受傷後2週間以上狂犬病の症状を示さない場合には、感染の可能性を否定できるとしています[1,5]。

だからといって流行地域での曝露後、動物観察結果を待ってから接種を検討するなんて自己判断はしないように。これが重要です。

日本国内で咬まれたら、通常はPEP不要?

日本では、ヒトの狂犬病は1956年、動物では1957年の猫を最後に、国内での発生は報告されていません。厚生労働省も、日本国内で犬に咬まれた場合は狂犬病感染の心配はないと説明しています。なので、日本国内で通常の飼育動物に咬まれた場合、狂犬病PEPは原則として行いません[4,5]。

PEPが不要でも、咬創の診療が不要になるわけではありませんよね。ちゃんと、創洗浄、破傷風予防、細菌感染、腱・神経・血管損傷の評価は別に行います。犬猫なめんなよ。

また、動物の輸入・不法持ち込みが疑われるなど、通常と異なる事情があれば保健所や感染症診療科に相談。海外で感染した輸入症例は、1970年(ネパール)、2006年(フィリピン、2例)、2020年(フィリピン)に国内で確認されています。問診では「どこで咬まれたか」を必ず確認せよ[4]。

海外で咬まれたら、帰国を待たずに受診する

犬などに咬まれたり、ひっかかれたりした場合、日本と流行地域での対応は一緒。
洗浄、消毒、病院受診。

  1. 傷をすぐ洗う。
    石けんと流水で、できるだけ早く、少なくとも15分間洗浄します。可能であれば、ポビドンヨードなどの消毒薬も使用します[1,2]。
  2. 現地の医療機関を受診する。
    傷の処置とPEPの適応を相談し、必要な接種を開始します。
  3. 帰国後も接種を完了する。
    ワクチンの商品名、接種日、投与経路、免疫グロブリンの有無が分かる記録を保管します。

ワクチン接種可能な施設は、厚生労働省検疫所FORTHの「予防接種実施機関検索」で探せます。
狂犬病関連の受診があれば、感染症科と相談したり、摂取可能施設に相談して、対応や在庫を受診前に電話で確認です[5,8]。

海外で始めたPEPを、国内でどう引き継ぐか

まず、接種記録を確認する

確認したいのは、ワクチンの商品名、接種日、投与経路(筋注か皮内か)、免疫グロブリンの有無と投与日。海外では、日本と異なる投与経路やスケジュールが使われている場合があります。
記録が不十分な場合は、接種した医療機関や専門家に確認します[3,5]。
自験例ではワクチンの商品名が違い、対応に迷ったことがあります。

接種日がずれたら、最初からやり直すのか

数日のずれだけで、ワクチンシリーズを最初からやり直す必要があるとは限りません。CDCは曰く少しの遅れは通常大きな問題にならないけど、大きなずれは公衆衛生当局などへの相談してねとのこと[1]。ERでは勝手に中断・再開せず、実際の接種日と製剤をもとに計画し、不明であれば要相談。

日本で使う製剤と接種スケジュール

厚生労働省Q&Aが流通中として案内しているのは、ラビピュール筋注用です[5]。

接種法接種日程
4回接種法(Zagreb法)0日目に2回(接種部位を変える)、7日目、21日目
5回接種法(Essen法)0、3、7、14、28日目
6回接種法0、3、7、14、30、90日目

4回接種法は、初日に2回接種するため、接種回数は合計4回でも接種日は3日です。米国CDCが示すday 0・3・7・14の4回法とは日程が異なります[1,6]。

ラビピュールは筋注製剤で、添付文書上の接種部位は通常、大腿前外側部または上腕三角筋です。臀部には接種しません[6]。日本で承認された別製剤も未承認の輸入物もありますが、流通状況や接種可能施設は変わり得ます。接種先と使用製剤を確認したうえで、継続方法を検討しましょう[5–7]。

以前に狂犬病ワクチンを受けている場合

接種歴が明らかな人は、未接種者と同じ方法にはなりません。WHOとCDCは、適切な曝露前・曝露後接種を完了した人には、曝露後ワクチンを0日・3日の2回、免疫グロブリンは投与しない方法を示しています[1,3,5]。ただし、接種歴の内容や免疫状態によって判断が変わるため、記録は確認を。

免疫グロブリンは日本で入手できない

厚生労働省Q&Aによると、狂犬病免疫グロブリンは日本では入手できないので詰み。曝露直後に必要な場合は現地での投与されているのが普通だと思います[5]。もし免疫グロブリンが適応でも未接種の場合でもワクチン接種を遅らせないこと。僕らができるのはこれです。

一般的にはHRIGはワクチン初回接種時に投与します。初回に投与できなかった場合も3回目のワクチン接種日(day 7)まで追加できるので「昨日、流行地域で噛まれてそのまま帰ってきた。不安。明日、その流行地域に変える予定」などという1日帰国であっても、その日にワクチンを打って、翌日海外でHRIGを投与することはできます。ワクチン開始を遅らせないことが大切です[1]。

CDCが挙げたPEPの投与ミスとは?

CDCは「こんな事したらいけませんよ」っと例を示してくれています[1]。

  • ワクチンを臀部に投与する
  • 免疫グロブリンを創部に十分浸潤させない
  • ワクチンと免疫グロブリンを同じシリンジ、または同じ部位に投与する
  • 接種歴や免疫状態の確認を誤り、免疫グロブリンを省略、または不要に投与する
  • 不適切な接種スケジュールを使う、あるいは接種がずれたあと不必要に最初からやり直す

米国では、未接種者へのHRIGは20 IU/kgが標準用量で、40 IU/kgを超えないよう推奨されています。創部とその周囲に可能な範囲で浸潤させ、残量はワクチンと離れた部位に投与します。HRIGとワクチンを同じシリンジや同じ部位に投与しない点も重要です[1]。

これらは米国のHRIG使用手順を含むため、日本の現場にそのまま適用する箇所と、参考にする箇所を分けます。一方、接種歴の確認、スケジュールの管理、臀部を避けることは、海外で接種を始めた患者を受け入れる際にも確認したい点です。

入院は必要か

PEPの接種だけを目的とする場合、通常は外来で接種を継続します。入院の要否は、狂犬病リスクではなく、咬創の深さや部位、手術・処置の必要性、感染、機能障害などで判断します。顔面・頭頸部の重い曝露や小児など、迅速なリスク評価が必要なケースでは、専門家や保健当局への相談を急ぎます。

まとめ:動物咬傷で確認したいこと

  • どこで、いつ曝露したか――日本国内か、流行地域か
  • 何の動物と、どう接触したか――咬傷・ひっかき傷・唾液の粘膜接触など
  • 過去の狂犬病ワクチン接種歴と免疫状態
  • 海外で接種した場合の記録――商品名、接種日、投与経路、免疫グロブリンの有無
  • 日本で接種を続けられる施設と、実際に使う製剤
  • 免疫グロブリンが入手できなくても、ワクチン開始を遅らせない

日本国内の通常の咬傷では、狂犬病PEPは原則不要です。しかし、海外での動物曝露は日本の救急外来にも持ち込まれます。曝露した場所を確認し、必要なPEPを正しく始めて、最後まで完了する。そこが、狂犬病対応の要点です。

参考文献

  1. CDC. Nationwide Increase in Reported Human Rabies Exposures: Rabies Post-exposure Prophylaxis Administration. Health Alert Network, CDCHAN-00533. September 10, 2026. CDC
  2. World Health Organization. Rabies. Fact sheet. WHO
  3. World Health Organization. Rabies vaccines: WHO position paper – April 2018. Weekly Epidemiological Record. 2018;93(16):201–220. WHO
  4. 伊藤直人, 西園晃. 狂犬病を取り巻く国内外の現状と今後の課題. ウイルス. 2024;74(1):1–8. J-STAGE
  5. 厚生労働省. 狂犬病に関するQ&A. 厚生労働省
  6. オーファンパシフィック. ラビピュール筋注用 電子添文(2024年10月改訂、第2版). PMDA
  7. KMバイオロジクス. 組織培養不活化狂犬病ワクチン 電子添文(2024年10月改訂). PMDA
  8. 厚生労働省検疫所FORTH. 予防接種実施機関検索. FORTH

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